【コラム】 ベイエリア・ノイズ/実験音楽シーン — 破壊と共鳴の50年史

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【コラム】 ベイエリア・ノイズ/実験音楽シーン — 破壊と共鳴の50年史

ベイエリアで何が起きたか?

文:mmr|テーマ:機械とコラージュ、即興の交差点──ベイエリアで育まれたノイズ/実験音楽の歴史とおすすめディスコグラフィ

サンフランシスコとオークランドを中心とするベイエリアは、サブカルチャーの実験場であり、ノイズ/実験音楽にとって特異な「実作の場」を提供してきました。1970〜80年代のDIY精神、機械と音響の暴力性を前景化したパフォーマンス・アート(例:Survival Research Laboratories)や、テープコラージュ/サンプリング文化をポピュラーレベルに押し上げたグループ(例:Negativland)など、舞台も手法も多様です。これらの活動はライブハウスやアートスペース、カセット/インディーレーベル、そして後のフェスティバル文化へと接続していきます。


概要

サンフランシスコ湾岸(ベイエリア)は、1970年代末から現在に至るまで、ノイズ/実験音楽の重要な拠点でした。 現地で育まれたノイズ/実験音楽の系譜を辿り、主要人物・団体、現場・フェス、年代別おすすめアルバムを解説します。

flowchart TD A["1978: SRL(Mark Pauline)"] --> B["1980s: Negativland — テープコラージュ/ラジオ実験"] B --> C["1990s: インディ/Bandcamp系台頭・実験エコシステム拡大"] C --> D["2000s: Matmos — サンプル/コンセプト重視で国際評価"] D --> E["2010s-2020s: 地域コンピ/即興ネットワーク成熟"]

キー・プレイヤーと場の生態

Survival Research Laboratories(SRL)

機械による破壊的パフォーマンスで知られるSRLは、1978年にマーク・ポーリンによって発足。巨大な装置と火・粉塵・金属音を用いたショーは、ノイズの“視覚性”と“危険性”を明確に提示し、ベイエリアを「音と機械の実験場」として確立しました。SRLの活動は音響的なノイズ表現のみならず、産業技術への眼差しとしても評価されています。


Negativland

サンフランシスコ周辺で活動し、サンプリング/コラージュを用いたメディア批評的作品で知られる集団。1980年代後半の『Escape From Noise』などは、ノイズとポップカルチャーの接合点を示した重要作で、DIYラジオやフェイク広告的手法を通じて論争と注目を集めました。


Matmos とローカル派生

Matmos は1990年代にサンフランシスコで結成され、サンプリングを用いたコンセプチュアルな作品で国際的に評価されました。2000年代以降も実験音楽の“コンセプチュアル側”を牽引し、アート機関や現代音楽系フェスとの接続を強めています。


コミュニティと現場(Noise Pop・Bay Improviser ほか)

ベイエリアにはNoise Popのようなインディフェスや、Bay Improviser のような即興/実験音楽コミュニティが存在し、若い世代の表現と場の継承を担っています。これらは“ライブ”という場を通じてシーンを循環させ、新旧が交差するプラットフォームを提供します。


主要アクト

  • Survival Research Laboratories(SRL) — 機械的パフォーマンスと破壊美学。パフォーマンス芸術とノイズの境界を曖昧にした組織。

  • Negativland — サンフランシスコ発のサウンドコラージュ集団。90年代のメディア批評的アプローチで知られる。

  • Matmos — サンプリング/コンセプチュアルな作品で国際的評価を受けたデュオ。現代音楽や美術館とも接続する。

  • ローカル即興/ノイズ・ネットワーク — Bay Improviser のようなコミュニティが現場を維持・更新している。


年代別おすすめアルバム

以下は、本文で挙げた主要作品

アーティスト / 作品 備考 リンク
Negativland — Escape From Noise 1987 テープコラージュと短い楽曲の混在、代表作 Amazon
Matmos — A Chance To Cut Is A Chance To Cure 2001 医療音を素材にしたコンセプト作 Amazon
Matmos — The Civil War 2003 コンセプトとサンプリング実験の継続 Amazon
Bay Area コンピ(地域編集盤) 2010s ローカル流通が主。Bandcampや地元レーベルで入手推奨  Bay Improviser 
Bill Orcutt — Jump On It 2023 実験的アコースティック。ベイエリア系ギターワークの代表例 Amazon

まとめ(今/未来)

ベイエリアのノイズ/実験音楽は、「破壊する」だけでなく「再編集し、批評する」行為として常に更新を続けています。SRLの機械劇場、Negativlandのメディア批評、Matmosのサウンド・リサーチ──いずれも音楽を越えた実践を提示してきました。現在はデジタル配信とローカルDIYのハイブリッドが進み、Bandcampやローカルフェスが若手を支えています。現場で聴き・参加することが、このシーンを理解する最良の方法です。


付録:現地コミュニティとイベント

  • Bay Improviser: ベイエリアの即興/実験コミュニティのキュレーションとカレンダー(運営の連絡先や月次イベント情報を掲載)。
  • Noise Pop: サンフランシスコの年次フェス。地元インディ/実験アクトの露出機会を提供。

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