
V. ValeとRE/Search:サブカルチャーの探求者
文:mmr|テーマ:サブカルチャーの歴史的アーカイブであり、音楽・映画・アートを横断的に記録した文化的遺産である「RE/Search」について
V. Valeは、1970年代後半から現在に至るまでサンフランシスコを拠点に活動する出版・編集者です。彼が手がけた『Search & Destroy』や『RE/Search』は、アンダーグラウンド文化を体系的に記録する重要なアーカイブとなりました。
本記事では、RE/Searchの歴史を年代別に振り返り、関連する音楽・映画・アートイベントを網羅します。
RE/Searchの起源と展開
Search & Destroy(1977–1979)
パンク・ジンとして創刊。西海岸のパンクシーンを紹介し、のちのRE/Searchの基盤となった。
RE/Search創刊(1980–)
1980年にスタート。インダストリアル音楽やアヴァンギャルド文化をテーマにしたインタビュー、レビューを掲載。
代表号として「Industrial Culture Handbook」「Modern Primitives」「Incredibly Strange Films」が知られる。
1990年代以降
ボディモディフィケーション、カルト映画、サイバーパンクなどを特集。出版だけでなく、イベントや展覧会にも広がりを見せた。
RE/Searchの影響と文化的意義
RE/Searchは、単なる出版物にとどまらず、サブカルチャーのアーカイブとしての役割も果たしています。Valeのインタビューやドキュメンタリーは、アンダーグラウンド文化の歴史を後世に伝える貴重な資料となっています。
年代別おすすめRE/Searchマガジン
雑誌タイトル | 発行年 | 主な内容・特徴 | 寄稿者 | リンク |
---|---|---|---|---|
RE/Search #1: Industrial Culture Handbook | 1980 | インダストリアル音楽の原点を記録 | Throbbing Gristle, Cabaret Voltaire | Amazon |
RE/Search Modern Primitives | 1981 | ボディモディフィケーション文化特集 | Fakir Musafar | Amazon |
RE/Search Incredibly Strange Films | 1983 | B級映画・カルト映画特集 | Nick Zedd, John Waters | Amazon |
RE/Search Industrial Culture Handbook (Revised) | 1987 | インダストリアル文化の改訂版 | SPK, Nurse With Wound | Amazon |
RE/Search J.G. Ballard | 1988 | SF作家バラード特集 | J.G. Ballard | Amazon |
RE/Search Industrial Culture Handbook 2000 Edition | 2000 | ノイズ/インダストリアル文化の再考 | Coil, Merzbow | Amazon |
年代別:関連音楽アルバム・映画・アートイベント
年代 | アイテム | 種類 | 解説 | リンク |
---|---|---|---|---|
1980 | 20 Jazz Funk Greats | 音楽 | Throbbing Gristleによる初期インダストリアルの代表作。社会批評と音響実験を融合。 | Amazon |
1980 | Industrial Music Night | イベント | サンフランシスコでのライブシリーズ。インダストリアル文化の初期を記録。 | RE/Search Archive |
1981 | Red Mecca | 音楽 | Cabaret Voltaireの傑作。都市的不安と冷戦時代の空気を反映。 | Amazon |
1981 | Pink Flamingos | 映画 | John Watersによるカルト映画。サブカルチャーの象徴的存在。 | Amazon |
1983 | Scatology | 音楽 | Coilの初期実験作。儀式性とノイズ美学が融合。 | Amazon |
1983 | Liquid Sky | 映画 | NYのドラッグカルチャーを描いたカルトSF。RE/Search的世界観と共鳴。 | Amazon |
1987 | Leichenschrei | 音楽 | SPKによるノイズ・インダストリアルの頂点。 | Amazon |
1987 | Begotten | 映画 | 無音・モノクロの実験映画。神話的で退廃的な映像美。 | Amazon |
1988 | Homotopy to Marie | 音楽 | Nurse With Woundの代表作。前衛音楽と現代アートを接続。 | Amazon |
1988 | Videodrome | 映画 | Cronenberg監督作。肉体とメディアの融合を描いたカルト作。 | Amazon |
1991 | Queen of Siam | 音楽 | Lydia Lunchによるポストパンク的ソロ。過激な社会批評を含む。 | Amazon |
1991 | Tetsuo: The Iron Man | 映画 | 塚本晋也監督による日本カルト映画。身体改造と都市不安をテーマに。 | Amazon |
1996 | The Audacity of Hype | 音楽 | Jello Biafraによる政治的パンク作品。 | Amazon |
1996 | Tetsuo II | 映画 | 『鉄男』の続編。身体と機械の境界をさらに探求。 | Amazon |
2000 | Pulse Demon | 音楽 | Merzbowによるノイズ史に残る傑作。圧倒的な音響実験。 | Amazon |
2000 | Ghost in the Shell | 映画 | 押井守監督によるアニメ映画。サイボーグとAIの哲学的物語。 | Amazon |
RE/Searchの逸話と裏話
RE/Searchの出版活動には数々の逸話が存在する。以下に代表的なものを挙げる。
-
Search & Destroyの誕生
ValeはサンフランシスコのCity Lights書店で働いていた際、Lawrence FerlinghettiとAllen Ginsbergの支援で『Search & Destroy』を創刊。パンクシーンのエネルギーを伝えることが目的だった。 -
Industrial Culture HandbookのDIY精神
電話と郵送でThrobbing GristleやCabaret Voltaireに直接インタビュー。レイアウトはValeがタイプライターで組み、印刷所に手渡しする手法で完成。 -
Modern Primitivesが生んだ衝撃
身体改造を「芸術」として紹介。ピアスや刺青文化をタブーからカルチャーへと昇華させた。後のアートイベントやパフォーマンスにも直結した。 -
John Watersとの協力関係
『Incredibly Strange Films』制作時、ジョン・ウォーターズが多くの資料を提供。「Valeだけが私の映画を文化的価値として扱ってくれた」と述懐。 -
Ballard特集とサブカル文学
1988年のJ.G. Ballard特集ではロンドンに渡航し直接インタビュー。Ballardは「自分の小説を読むのがパンク世代だとは思わなかった」と発言。 -
資金難とZine文化の継続
発行部数は少なかったが、読者は世界中に広がり、Valeは「大量発行よりも熱狂的な読者が大事」と語った。 -
サンフランシスコとの共振
RE/Searchの周囲には、Survival Research LaboratoriesやOther Cinemaといった実験的集団が集い、Zineとアートのネットワークを構築した。
まとめ
V. ValeのRE/Searchは、単なる雑誌を超えてサブカルチャーの歴史的アーカイブであり、音楽・映画・アートを横断的に記録した文化的遺産です。インダストリアルからモダンプリミティブ、カルト映画からサイバーパンクに至るまで、幅広い領域を探求し続けており、その影響は今なお世界中に波及しています。 研究者やアンダーグラウンド文化愛好者にとって、RE/Searchは必読の資料といえるでしょう。