
「無限に広がる音のレゴブロック」
文:mmr|テーマ:ユーロラック・モジュラーシンセサイザーの変遷と音楽シーンへの影響
ユーロラック(Eurorack)モジュラーシンセサイザーは、1990年代初頭にドイツのエンジニア、ディーター・ドイプファー(Dieter Doepfer)が提唱しました。彼のA-100システムを起点に、モジュールのサイズや電源規格を統一したことで、異なるメーカーのモジュールを自由に組み合わせられる仕組みが誕生しました。
従来のモーグやブクラに比べて小型かつ手頃な価格で提供されたユーロラックは、多くのミュージシャンや愛好家に支持され、現在では世界中で300以上のメーカーが参加する大規模なエコシステムへと発展しています。
主なモジュールとメーカーの特徴
Make Noise(メイクノイズ)
代表モジュール: MATHS、Erbe-Verb、Phonogene
特徴: 直感的な操作性と独創的な機能を持つモジュールを提供。MATHSはアナログコンピュータとして、複雑なモジュレーションを可能にします。
Intellijel(インテリジェル)
代表モジュール: Plonk、Metropolis、Tetrapad
特徴: 高品質なデジタルモジュールを多く手掛け、特にシーケンサーやパフォーマンス用のインターフェースに強みがあります。
Mutable Instruments(ミュータブル・インストゥルメンツ)
代表モジュール: Braids、Rings、Clouds
特徴: オープンソースで開発され、柔軟な音作りが可能なモジュールを提供。特に音色の多様性に優れています。
Doepfer(ドイプファー)
代表モジュール: A-110(VCO)、A-120(SVF)、A-140(EG)
特徴: ユーロラック規格の提唱者として、基本的なモジュールを多くラインナップ。初心者にも扱いやすい設計が特徴です。
Noise Engineering(ノイズ・エンジニアリング)
代表モジュール: Basimilus Iteritas、Loquelic Iteritas
特徴: デジタルシンセシスを駆使し、鋭い音色と高い音圧を持つモジュールを提供。特にエクストリームな音作りに適しています。
音楽ジャンル・シーンへの影響
ユーロラックモジュラーシンセサイザーは、特定の音楽ジャンルやシーンに多大な影響を与えてきました。
エクスペリメンタル/アンビエント
アレッサンドロ・コルティーニ(Alessandro Cortini)やケイト・フルターン・ウィットマン(Keith Fullerton Whitman)などのアーティストは、ユーロラックを用いて複雑で深遠な音世界を構築しています 。
テクノ/IDM
アーティストの中には、ユーロラックをライブパフォーマンスやスタジオ制作に活用し、即興的でダイナミックな音作りを行っている者も多くいます 。
ポップ/ロック
ColdplayやNine Inch Nailsなどのバンドもユーロラックを取り入れ、楽曲制作やライブパフォーマンスに新たな音色を加えています 。
ユーザーとアーティストの活用事例
以下は、ユーロラックモジュラーシンセサイザーを活用している著名なアーティストとその代表的なモジュールの一部です。
アーティスト名 | 使用モジュール例 |
---|---|
Alessandro Cortini | Make Noise MATHS、Mutable Instruments Rings |
Keith Fullerton Whitman | Intellijel Plonk、Mutable Instruments Clouds |
Aphex Twin | Make Noise Erbe-Verb、Mutable Instruments Braids |
Coldplay | Make Noise Shared System、Intellijel Metropolis |
Nine Inch Nails | Make Noise MATHS、Mutable Instruments Clouds |
Surgeon | Mutable Instruments Braids、Make Noise MATHS、Hexinverter Mutant Hi Hats、Tiptop Audio Trigger Riot |
Surgeonのライブセットアップの特徴
Surgeonのライブセットアップは、最小限の機材で最大の表現を追求することを特徴としています。彼は、複雑な機材の組み合わせではなく、限られたモジュールを駆使して即興的なパフォーマンスを行います。これにより、観客との一体感や予測不可能な展開を生み出し、テクノのライブパフォーマンスに新たな次元をもたらしています。
小さな箱から、無限のサウンドへ
ユーロラックモジュラーシンセサイザーは、その柔軟性と拡張性により、アーティストに新たな創造の自由を提供しています。今後もその進化と共に、音楽シーンにおける役割はますます重要になっていくことでしょう。