【コラム】 国境で変わる“ユーロの音”──イタリア、ドイツ、スウェーデン:三大制作国が生んだユーロ・ミュージックの違い

Column Euro Euro Beat
【コラム】 国境で変わる“ユーロの音”──イタリア、ドイツ、スウェーデン:三大制作国が生んだユーロ・ミュージックの違い

“ユーロの音” なぜ国別で音が違うのか?

文:mmr|テーマ:ジャンル:音楽コラム|テーマ:制作国別90年代ユーロ音楽の比較分析

「ユーロ・ミュージック」と一括りに語られがちだが、実際には制作された国によって“音の質感”や“美意識”がまったく異なる。
90年代、このジャンルの主戦場となったのは主に イタリア、ドイツ、スウェーデン
彼らはそれぞれの文化、産業、技術背景をもとに、独自の「ユーロの音」を世界へ輸出していた。


イタリア産ユーロ:「スピード」と「シンセの艶」

概要

  • 拠点:ミラノ、ヴェローナ、パルマなど
  • 主なレーベル:Time Records、A-Beat-C、Discomagic
  • 特徴:高速BPM、派手なシンセ、分厚いユニゾンメロディ、感情過多なボーカル

音の特徴

  • BPMは140~160と非常に高速
  • 音数が多く、シンセは派手でキラキラ
  • リズムよりメロディを最優先
  • ドラマチックでエモーショナルな展開

代表アーティスト/ユニット

  • Dave Rodgers
  • Domino
  • Alexia
  • Corona
  • Eiffel 65

文化的背景

  • Italo Disco〜ハイエナジーの継承者
  • 映画音楽大国イタリアらしく、構成やスケール感が演劇的
  • 国内需要は限定的、国外(特に日本)向け輸出志向

代表ディスコグラフィ

アーティスト アルバム/シングル 特徴・ヒット曲
Dave Rodgers Eurobeat Compilation Vol.1 (1991) 高速ユーロビートの代表作。代表曲「Deja Vu」など
Domino S.A.X. (1992) キャッチーで派手なシンセラインが特徴
Alexia Fan Club (1997) ボーカル重視のメロディック・ユーロダンス。ヒット曲「Uh La La La」
Corona The Rhythm of the Night (1995) ユーロダンス系の代表作。「The Rhythm of the Night」が世界的ヒット
Eiffel 65 Europop (1999) 後期Italo Dance。ヒット曲「Blue (Da Ba Dee)」

ドイツ産ユーロ:「パワー」と「構造美」

概要

  • 拠点:フランクフルト、ミュンヘン、ベルリンなど
  • 主なレーベル:Dance Pool(Sony Germany)、Zyx、Low Spirit
  • 特徴:重たいビート、機械的なベースライン、ミニマル構成、クラブ志向

音の特徴

  • 太くて硬質なキックドラム、4つ打ちを強調
  • メロディよりリズムと構造を重視
  • コード進行はシンプルで暗め
  • トランス的要素も多く、ループ感を活かす

代表アーティスト/ユニット

  • Snap!
  • Culture Beat
  • Real McCoy
  • U96
  • Scooter

文化的背景

  • 工業国家としての精密さ、技術志向
  • クラブ・レイヴ文化の浸透度が高く、より実践的なトラックが多い
  • ベルリンの壁崩壊後、音楽的解放が進行

代表ディスコグラフィ

アーティスト アルバム/シングル 特徴・ヒット曲
Snap! World Power (1990) 世界的ヒット「The Power」「Rhythm Is a Dancer」収録
Culture Beat Serenity (1993) クラブ志向のユーロダンス。「Mr. Vain」が代表曲
Real McCoy Another Night (1995) 米独混成ユニット。ヒット曲「Another Night」「Run Away」
U96 Das Boot (1992) テクノ・トランス寄り。タイトル曲がクラブヒット
Scooter Our Happy Hardcore (1996) ハードダンス化ユーロ。代表曲「Hyper Hyper」

スウェーデン産ユーロ:「洗練されたポップ感覚」

概要

  • 拠点:ストックホルム、マルメなど
  • 主なレーベル:Stockholm Records、Mega Records
  • 特徴:清涼感あるサウンド、英語詞ポップ志向、ソフトなミックス

音の特徴

  • ポップス的な構造、聴きやすく親しみやすい
  • ミドルテンポ、バラード系の楽曲も多い
  • リズムは控えめ、メロディとボーカル重視
  • 洗練されたミックスとプロダクションの透明感

代表アーティスト/ユニット

  • Ace of Base
  • Roxette
  • Dr. Alban
  • Rednex
  • Army of Lovers

文化的背景

  • スウェーデンは英語教育が高度で、歌詞も英語が基本
  • ABBA以降、輸出志向のポップス作りが伝統
  • ハードよりミドルでメロディ重視の音作り

代表ディスコグラフィ

アーティスト アルバム/シングル 特徴・ヒット曲
Ace of Base Happy Nation / The Sign (1993/1994) 「All That She Wants」「The Sign」など全米ヒット
Roxette Joyride (1991) ポップ・ロック融合。「Joyride」「Fading Like a Flower」収録
Dr. Alban One Love (1992) ユーロ・レゲエ融合。「Sing Hallelujah!」ヒット
Rednex Sex & Violins (1995) カントリー×テクノ融合。「Cotton Eye Joe」世界的ヒット
Army of Lovers Massive Luxury Overdose (1991) キャンプ&耽美ユーロポップ。「Crucified」が代表曲

比較表まとめ:制作国別「ユーロの個性」

  イタリア ドイツ スウェーデン
BPM 高速(140〜160) 標準〜やや速め(128〜140) ミドル(110〜130)
美意識 派手・感情的・劇的 機械的・構造的 ソフト・ポップ・洗練
主戦場 日本市場・アニメ・パラパラ クラブ/レイヴ 国際ポップ市場
メロディ傾向 明快・派手・リードシンセ 繰り返し・暗め 親しみやすく歌メロ中心
文化的特徴 Italo Discoの継承 精密工業的クラブ思考 北欧ポップの輸出志向

ユーロ・ミュージックは“国境の音楽”ではなく、“国民性の音”だった

90年代ユーロ・ミュージックの最大の魅力は、「世界共通語」的に機能しながら、実はその中に各国の文化や美学が濃厚に埋め込まれていることだ。
同じような4つ打ちでも、イタリアの熱、ドイツの硬質さ、スウェーデンの清涼感は明らかに違う。

グローバルとローカルの交差点に生まれた音楽。
それが、90年代ユーロの本質なのかもしれない。

Monumental Movement Records

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