Electronic Body Music(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)とは何か?
文:mmr|テーマ:エレクトロニック・ボディ・ミュージックとは何か?
起源:産業の残響と機械の律動
EBMは1980年代初頭、ヨーロッパ(主にベルギーとドイツ)で誕生した電子音楽のジャンルです。名前の由来は、身体的(Body)なダンス・グルーヴと、エレクトロニクスによって構成された音楽であることにあります。これはIndustrial(インダストリアル)ミュージックとエレクトロニック・ダンスミュージックの融合といえるでしょう。
特に以下の2組がその先駆けとして知られています:
彼らは冷たく鋭いエレクトロニクス、暴力的とも言えるミニマルビート、ミリタントなボーカルを駆使し、従来のポップスやロックとは異なる、新たな「肉体的電子音楽」を構築しました。
サウンドの特徴
EBMのサウンドは、一言で言えば「無機質で肉体的」。以下の要素が特徴です:
ハードでミニマルなビート
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主に4/4拍子、BPMは120〜140程度
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工業機械のようなメカニカルなリズム
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ドラムマシン(Roland TR-808, TR-909など)を多用
シンセサイザーとシーケンサー
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モノクロームで暗く、重厚なシンセ音
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アナログ/デジタルのシーケンサーで動くループ構成
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繰り返しが生むトランス状態と身体性の両立
ボーカル
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多くは男性による低音の無機質なボイス
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歌うというよりは命令口調、スローガン的に語る
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しばしばドイツ語や英語、仏語が混ざる
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ディストーション処理された声も多い
テーマと美学
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戦争、監視、機械化、人間疎外、政治的アイロニー
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冷戦下のヨーロッパの不安や社会構造批評
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工場、都市、軍服、フェティシズム、レザー文化
主なアーティストと作品
| アーティスト | 国 | 代表曲 / アルバム |
|---|---|---|
| Front 242 | ベルギー | “Headhunter”, Geography (1982) |
| DAF | ドイツ | “Der Mussolini”, Alles ist gut (1981) |
| Nitzer Ebb | イギリス | “Join in the Chant”, That Total Age (1987) |
| Klinik | ベルギー | “Moving Hands” |
| Skinny Puppy | カナダ | “Assimilate” |
| Die Krupps | ドイツ | EBMからメタル融合まで進化 |
シーンの広がりと影響
EBMは1980年代後半〜1990年代初頭にかけて、クラブシーンやアンダーグラウンドで急速に広がります。特にドイツ、スウェーデン、オーストリア、フランスなど、ヨーロッパ各地のエレクトロニック・ミュージックシーンに強い影響を与えました。
また、EBMは以下のジャンルにも多大な影響を与えました:
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インダストリアル・ロック/メタル(例:Ministry、Nine Inch Nails、Rammstein)
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テクノ、アシッドテクノ
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エレクトロクラッシュ、ダークエレクトロ、アグロテック
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ゴス/インダストリアル・クラブカルチャー(サイバーゴス)
クラブカルチャーとの接点:Body MusicとしてのEBM
EBMは決して家庭内で聴かれるためだけの音楽ではなく、「踊るための音楽」としての側面が非常に強いです。1980年代後半以降、EBMは特定のナイトクラブやフェスティバル(例:Wave-Gotik-Treffen、Amphi Festival)を中心に、ダークウェア、レザー、サイバーな衣装と共に踊られる文化として定着しました。
90年代に入ると、“Old School EBM”として回顧される一方で、シーンは以下のような形で枝分かれします:
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Futurepop(VNV Nation、Covenantなど)
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Dark Electro / Harsh EBM(Suicide Commando、Hocicoなど)
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Techno Body Music (TBM):テクノDJによるEBMリバイバル(Helena Hauff、Ancient Methods)
近年のリバイバルと現在のEBM
2010年代以降、テクノ・インダストリアルのリバイバルと共に、EBMの再評価が進行しています。
現代アーティスト
これらのアーティストはEBMの影響を受けながらも、コールドウェーブやシンセウェーブ、ポストパンクなどの要素と組み合わせ、新しい形のEBMを創出しています。
特徴的なトレンド
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アナログ機材やハードウェア・ライブの再注目
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インディペンデントなカセット/ヴァイナルのリリース
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ファッション面でのサイバー・パンク/DIY再興
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クラブ/レイヴでの「肉体的」なDJセットへの回帰
肉体と電子が融合する美学
EBMはその名の通り、「エレクトロニックな身体音楽」です。それは単なるダンスミュージックではなく、政治性、機械性、身体性、反抗性を備えたトータルな表現形式でした。
現在、クラブカルチャーやフェス、DIYシーン、アート、ファッションに至るまで、EBMの影響は多方面に波及しています。
そして何よりも—— その無機質なリズムの中に宿る“熱”が、肉体を突き動かす。 それこそが、EBMが持つ本質的な魅力なのです。