なぜStrictly Rhythmは特別だったのか
文:mmr|テーマ:ニューヨーク発の伝説的ハウス・レーベル Strictly Rhythm の成立から現在までを、時代背景・代表的名盤・当時の制作機材トレンドの観点で年代別に整理
Strictly Rhythm(通称:ストリクトリー)は、1989年にニューヨークで誕生したハウス専門レーベル。ロウ(ストリート)で鍛えられたA&R感覚とクラブ指向の選曲で、90年代のニューヨーク〜世界のハウス・シーンをけん引しました。レーベルはアンダーグラウンドの“サウンド”と商業ヒットのバランスを取りながら、DJ/プロデューサーの発掘と育成に卓越していました。
1989〜1992:誕生と「NYローカルの実験場」期
時代背景:シカゴやデトロイトで芽吹いたハウス/テクノが90年代初頭にニューヨークのクラブへ流入。クラブ文化が商業化する直前、アンダーグラウンドな実験心が残っていた時代です。
出来事:1989年、Mark Finkelstein と Gladys Pizarro によって設立。創業当初からDJ寄りの12インチ中心で、地元クラブでウケる“ダンスフロア直結型”の音を次々送り出しました。
代表的名盤(初期)
- Roger Sanchez — Luv Dancin’(1990, Underground Solution名義)
 
機材トレンド
ターンテーブル+サンプラー(初期SPシリーズやAkai)を使い、レコードの「ループ感」を生かした制作が多かった。
| No | アーティスト | トラック | コメント | 
|---|---|---|---|
| 1 | Underground Solution | Luv Dancin (1990) | クラブ向けの初期ハウスアンセム。リズムの躍動感が特徴。 | 
| 2 | Barbara Tucker | I Get Lifted | パワフルなボーカルとゴスペル要素が融合したハウス。 | 
| 3 | Hardrive | Deep Inside | ディープハウスの定番、ソウルフルなメロディが魅力。 | 
| 4 | George Morel | Let’s Groove | ミニマルながらグルーヴ感抜群の初期NYハウス。 | 
| 5 | Masters At Work | The Ha Dance | ハウスのパーカッシブな要素を前面に押し出した作品。 | 
| 6 | Kenny Dope | The Bucketheads EP | 斬新なサンプル使いとリズムが印象的。 | 
| 7 | The Underground Network | It’s Alright | メロディとビートのバランスが絶妙なクラブヒット。 | 
| 8 | Groove Armada | House Music Will Never Die | ハウスへのオマージュ的作品、後のリリースに影響。 | 
| 9 | Logic | The Warning (Juan Atkins Remix) | テクノ的アプローチとハウスの融合が新鮮。 | 
| 10 | Victor Simonelli | Do You Feel Me | メロディアスなディープハウス、クラブでの人気曲。 | 
1993〜1997:黄金期 — クラブからチャートまで
時代背景:90年代中盤、ハウスはヨーロッパとアメリカで一気にクロスオーバー。クラブアンセムがラジオ/チャートにも波及し、リミックス文化が成熟しました。
キーモーメント/代表作
- Reel 2 Real feat. The Mad Stuntman — I Like To Move It(1993)
 - Armand Van Helden — Witch Doktor(1994)
 - Josh Wink — Higher State Of Consciousness(1995)
 - Ultra Naté — Free(1997)
 
機材トレンド
- E-MU SP-12 / SP-1200(ラフで温かみのあるサンプル質感)
 - Akai MPCシリーズ(MPC60〜MPC2000系)
 - Roland TR-909 / TR-808(キック/ハイハット)
 - アウトボード/テープ処理で「厚み」を作る技法
 
| No | アーティスト | トラック | コメント | 
|---|---|---|---|
| 1 | Reel 2 Real ft. The Mad Stuntman | I Like To Move It (1993) | 世界的にヒットしたダンスアンセム、カリビアン風リズムが特徴。 | 
| 2 | Armand Van Helden | Witch Doktor | 独特なサンプリングとヘビーなビートが印象的。 | 
| 3 | Barbara Tucker | I Found A Place | ソウルフルで温かみのあるボーカルハウス。 | 
| 4 | George Morel | Morel’s Groove | シンプルなループながらフロア映えするトラック。 | 
| 5 | India | To Be In Love | メロディアスで滑らかなボーカルが光る作品。 | 
| 6 | Josh Wink | Higher State Of Consciousness | サイケデリックな要素を持つクラブアンセム。 | 
| 7 | Hardrive | Just Believe | ディープハウスの名曲、情感豊かなコード進行。 | 
| 8 | Barbara Tucker | Stay Together | クラシックなボーカルハウス、感情的な歌唱が魅力。 | 
| 9 | Masters At Work | The Nervous Track | 打ち込みと生演奏の融合が秀逸なトラック。 | 
| 10 | Ultra Naté | Free | ハウス史上に残るボーカルアンセム、ポジティブな歌詞。 | 
1998〜2002:拡大と迷走、そして閉鎖
時代背景:ブームのピークと市場の競争激化。レーベルは世界戦略を模索する一方、メジャー企業との資本関係が波紋を呼ぶ。
出来事:Warner系との提携を経て、2002年に一時事業停止。
代表的名盤
- Wamdue Project — King of My Castle(1997/1999 ヒット)
 
機材トレンド
DAWとソフトウェア・プラグインが制作ワークフローに入り始め、ハード機材のサウンドをDAWで再現/統合する動きが加速。
| No | アーティスト | トラック | コメント | 
|---|---|---|---|
| 1 | Wamdue Project | King Of My Castle | 世界的ヒット、メロディとリズムの融合が絶妙。 | 
| 2 | Barbara Tucker | Stop Playing With My Mind | グルーヴ感あるディープハウス、ボーカルが主役。 | 
| 3 | George Morel | Let’s Groove 98 | 98年リリース版、現代的なアレンジが特徴。 | 
| 4 | Reel People | The Rain | ジャジーな要素とハウスビートが調和した作品。 | 
| 5 | Groove Armada | Superstylin’ | ファンキーでエネルギッシュなクラブチューン。 | 
| 6 | Armand Van Helden | You Don’t Know Me | メロディックなハウス、クラブでの定番。 | 
| 7 | India | Love & Happiness | ボーカルの表現力が光るディープハウス。 | 
| 8 | Barbara Tucker | Everybody Dance (The Horn Song) | ホーンの華やかさが印象的なフロア向け曲。 | 
| 9 | Mousse T. | Horny (Strictly Edits) | ユーモアとグルーヴ感を兼ね備えたクラシック。 | 
| 10 | Celeda | Music Is The Answer | 前向きなメッセージとダンスビートの融合。 | 
2007〜2010:再始動と国際展開
時代背景:デジタル配信とダンスミュージックのグローバル化。
出来事:2007年に独立体制で再始動。デジタル配信で過去カタログを復刻しつつ、新アーティストを迎えてリリース再開。
代表的リリース
- Quentin Harris、Osunlade、Dennis Ferrer、Bob Sinclar など
 
機材トレンド
DAW中心化、プラグイン音源、ソフトウェア・アナログモデリングが主流に。
| No | アーティスト | トラック | コメント | 
|---|---|---|---|
| 1 | Quentin Harris | Let’s Be Young | モダンディープハウス、滑らかなグルーヴ。 | 
| 2 | Dennis Ferrer | Hey Hey | エネルギッシュなフロア向けハウストラック。 | 
| 3 | Osunlade | Envision (Strictly Remix) | ジャジーでディープなリミックス、洗練されたサウンド。 | 
| 4 | Barbara Tucker | I Am | ボーカルハウスの王道、力強い歌声が印象的。 | 
| 5 | Bob Sinclar | World Hold On (Strictly Rework) | メロディックでポジティブなフロアアンセム。 | 
| 6 | Groove Armada | Song 4 Mutya (Strictly Club Mix) | エレクトロとハウスの融合、クラブ向けリミックス。 | 
| 7 | DJ Gregory | Elle | ディープで落ち着いたグルーヴ感のトラック。 | 
| 8 | The Shapeshifters | Chime | クラシックハウスのリバイバル感ある作品。 | 
| 9 | Barbara Tucker | One | 力強いボーカルとクラブフレンドリーなアレンジ。 | 
| 10 | Copyright | He Is | ディープハウスの典型、落ち着いた雰囲気が特徴。 | 
2013〜現在:カタログの価値化と権利移転
時代背景:音楽カタログの投資価値が拡大。90年代ダンスカタログはサンプリング素材、再リリース、ライセンスで再評価。
出来事:2013年、BMGがStrictly Rhythmのマスター・カタログを取得。その後パブリッシング権も移転。
現在の立ち位置
ブランド/カタログは現役で、再発・コンピレーション/ライセンス提供など“資産”として活用。
| No | アーティスト | トラック | コメント | 
|---|---|---|---|
| 1 | Kings Of Tomorrow | Finally (2014 Remaster) | 伝統的ディープハウスのリマスター、滑らかな音質。 | 
| 2 | Dennis Ferrer | Maniac 3000 | モダンで洗練されたハウスビートが特徴。 | 
| 3 | Quentin Harris | My Joy (Re-edit) | クラブ向けに再編集されたディープハウス。 | 
| 4 | Barbara Tucker | Think (About It) 2015 Mix | ボーカルハウスの再解釈、情感豊か。 | 
| 5 | Honey Dijon | Houze Muzik (Strictly Release) | 現代ハウスの最前線、グルーヴ重視。 | 
| 6 | Louie Vega | Dance Ritual (2016) | ラテン風味を取り入れたディープハウス。 | 
| 7 | DJ Spen | The Spirit of House | 伝統ハウスのエッセンスを現代風にアレンジ。 | 
| 8 | David Penn | Con Son | 滑らかなグルーヴとメロディが特徴のクラブチューン。 | 
| 9 | Riva Starr | House Nation 2020 | エネルギッシュなハウス、フロア映えするビート。 | 
| 10 | Barbara Tucker | I Get Lifted (Remix 2021) | 現代的アレンジの名曲リミックス、ボーカルが光る。 | 
機材(制作ツール)の変遷まとめ
| 時期 | 主な機材 | 
|---|---|
| 1989〜初期90s | Roland TR-909 / TR-808, TB-303, ターンテーブル+ミキサー | 
| 90s中盤 | E-MU SP-12 / SP-1200, Akai MPCシリーズ, アウトボード/テープ | 
| 2000s〜現在 | DAW (Pro Tools, Ableton, Logic), プラグイン/ソフトウェアシンセ | 
年代別・代表的名盤(簡易一覧)
| 年代 | 年 | アーティスト | 作品 | 重要性 | 
|---|---|---|---|---|
| 初期 | 1990 | Roger Sanchez | Luv Dancin’ | NYクラブ直結の初期代表作 | 
| 黄金期 | 1993 | Reel 2 Real | I Like To Move It | 世界的ヒット | 
| 黄金期 | 1994 | Armand Van Helden | Witch Doktor | ニューヨーク・ハウス象徴曲 | 
| 黄金期 | 1995 | Josh Wink | Higher State Of Consciousness | アシッド寄りアンセム | 
| 黄金期〜後期 | 1997 | Ultra Naté | Free | クラブ→チャートのクロスオーバー | 
| 後期 | 1999 | Wamdue Project | King of My Castle | リミックスで世界ヒット | 
クラシックなハウスの宝庫
Strictly Rhythmは「クラブで効く=良い」を徹底したA&Rと、プロデューサーにとっての“実験場”を提供。資本問題で一度閉鎖したものの、再始動とカタログの企業評価を経て、今日では「クラシックなハウスの宝庫」として再評価されています。
参考文献
- Wikipedia: Strictly Rhythm
 - Red Bull Music Academy: Gladys Pizarro
 - Resident Advisor / XLR8R: レーベル閉鎖・再建
 - BMG公式ニュース: Strictly Rhythm カタログ取得
 - Todd Terry / Masters At Work インタビュー:機材と制作手法