【コラム】 エレクトロ(Electro):マシンが刻む未来都市のリズム

Column 00s 80s 90s Electro
【コラム】 エレクトロ(Electro):マシンが刻む未来都市のリズム

退廃と洗練を同時に響かせる電脳ファンク

文:mmr|テーマ:ブレイクダンスと共に生まれた電子の鼓動


イントロダクション

エレクトロ(Electro)は、1980年代初頭に生まれた電子音楽の潮流である。ファンクやヒップホップのリズムを基盤に、リズムマシン、特にRoland TR-808のビートを核とすることで独自の進化を遂げた。重低音のキック、乾いたスネア、そしてシンセサイザーによる近未来的なサウンドは、のちのテクノ、ハウス、エレクトロクラッシュ、さらには現代のベースミュージックにも強烈な影響を残している。


エレクトロの起源:ヒップホップとの共振

エレクトロの誕生は、ニューヨーク・ブロンクスのブレイクダンス・カルチャーと密接に結びついている。

Afrika Bambaataa & The Soulsonic Force – Planet Rock (1982)

クラフトワークの「Trans-Europe Express」と「Numbers」をサンプリングし、TR-808のリズムに融合した歴史的名曲。これにより、エレクトロは「未来的なヒップホップ」として登場した。

「Planet Rock」は、Afrika BambaataaとThe Soulsonic Forceの代表作として広く称賛されており、その革新的なサウンドと先駆的なアプローチはヒップホップとダンスミュージックの歴史において重要な位置を占めています。

Tracklist

A1. Planet Rock (Vocal)

A2. Bonus Beats I

B. Planet Rock (Instrumental)

メルカリで購入

Youtube


Egyptian Lover – Egypt, Egypt

シンセを駆使しつつ、セクシャルで退廃的な世界観を提示。西海岸シーンを象徴する一曲。

エレクトロは単なる音楽ジャンルではなく、ブレイクダンスやストリート・ファッションと不可分のカルチャーであった。シルバーの衣装やサイバー風ビジュアルは「マシンと人間の融合」という時代感覚を体現していた。


テクノとエレクトロの交錯

1980年代後半から1990年代にかけて、デトロイト・テクノとエレクトロは再び結びつく。

Drexciya(デトロイトの伝説的デュオ)は、海底文明をテーマにしたコンセプト作品で、硬質なエレクトロ・ビートに神話性を付与した。


Juan Atkins(Model 500)は、テクノのパイオニアであると同時に、エレクトロ的なトラックを数多く制作し、両者の境界を自由に行き来した。

この流れは、のちのIDMやグリッチ・エレクトロニカにもつながっていく。


2000年代のリバイバルとエレクトロクラッシュ

2000年代初頭、エレクトロは再び脚光を浴びる。

Electroclash(エレクトロクラッシュ):Miss Kittin & The Hacker、Fischerspooner、Adult. などが牽引。退廃的でアート志向のサウンドは、ファッション業界とも密接に結びついた。


Electro Houseとの接続:JusticeやDigitalismといったフランス/ドイツのアーティストが、エレクトロ的なシンセ・リフをハウスの4つ打ちに融合し、クラブシーンを席巻。

2003年から活動するフランスのエレクトロニックダンスバンドJusticeのデビューアルバムは、フランスのレーベルEd Banger Records(エドバンガーレコード)から2007年にリリースされ、グラミー賞のベスト・エレクトロニック/ダンス・アルバム部門にノミネートされるなど世界的な成功を収めた。

Tracklist

1. Genesis
2. Let There Be Light
3. D.A.N.C.E.
4. Newjack
5. Phantom
6. Phantom Pt II
7. Valentine
8. Tthhee Ppaarrttyy
9. DVNO
10. Stress
11. Waters Of Nazareth
12. One Minute To Midnight

メルカリで購入

Youtube


現代のエレクトロの姿

今日のエレクトロは、純粋な形で継承される一方、様々なジャンルに分散している。

テクノ/IDMのサブジャンルとして、アナログシンセと808を用いた硬質なトラックがリリースされ続けている。

ベースミュージックやTrapにも、エレクトロ由来のリズム・アプローチが顕著に見られる。

日本のシーンでは、Ken IshiiやGoth-Tradがエレクトロ的要素を取り入れ、独自の解釈を展開してきた。


注目すべき代表作

Afrika Bambaataa & The Soulsonic Force – Planet Rock (1982)

Egyptian Lover – On the Nile (1984)

Cybotron – Clear (1983)

Drexciya – Neptune’s Lair (1999)

Miss Kittin & The Hacker – First Album (2001)

Justice – Cross (2007


マシンと人間の境界を揺さぶる電撃グルーヴ

エレクトロは、単なる一過性のジャンルではなく、電子音楽の発展における基盤となる存在である。ヒップホップ、テクノ、ハウス、エレクトロクラッシュ、さらには現代のエレクトロニック・ダンスミュージックに至るまで、そのDNAは脈々と息づいている。 マシンと人間が共振するサウンド――それこそがエレクトロの核心であり、未来の音楽を予言し続ける所以なのだ。

Monumental Movement Records

Monumental Movement Records

中古レコード・CD・カセットテープ・書籍などを取り扱っています。