はじめに
文:mmr|テーマ:生涯、キャリア、音楽スタイル、そしてプロジェクトを年表や図表を交えて辿る
Guillermo Scott Herren、通称 Prefuse 73 は、21世紀初頭以降のインストゥルメンタル・ヒップホップ、IDM、エレクトロニカの世界で非常に重要なプロデューサーである。彼の音楽は、サンプルの断片化、ボーカルの切り貼り、グリッチ処理などを駆使した緻密なビート構築によって知られており、多くのクリエイターに影響を与えてきた。
生い立ちと背景
Guillermo Scott Herren は1976年、アメリカ・フロリダ州マイアミで生まれる。父はカタルーニャ出身、母はアイルランド系およびキューバ系で、幼少期から多文化的な環境で育った。母親による音楽教育を受け、ピアノをはじめ複数の楽器に親しんだ経験がある。
少年期にはヒップホップやパンク、電子音楽に興味を抱き、地元マイアミの音楽シーンに影響を受ける。ティーンエイジャーの頃にはDJ活動を開始し、アトランタのナイトクラブでプレイするなど、早くから音楽制作とパフォーマンスに関わった。スタジオでの経験を通じて、音響的実験やサンプリング手法を磨く。
大学進学のためにニューヨークへ移住した際、自身の音楽プロジェクトを本格化させることになる。
初期キャリア — Delarosa & Asora
1997年、Scott Herren は Delarosa & Asora 名義でアルバム Sleep Method Suite を発表。
この時期の作品は、メロディックなテクノ、グリッチ、抽象的な電子音が特徴であり、初期の実験的な音響処理の基礎が形成されていた。
その後、シングルやEPのリリースも行い、細やかなクリック音や儚いメロディを融合させる独自の作風を展開していく。
Savath & Savalas プロジェクト
2000年頃、別名義 Savath & Savalas としてプロジェクトを開始。
2000年にリリースされた Folk Songs for Trains, Trees, and Honey では、アコースティック楽器や環境音を取り入れたアンビエント志向のサウンドを提示。
2004年には Apropa’t を発表。スペイン語・カタルーニャ語のボーカル、ポストロックやラテンの影響を反映させ、Prefuse 73 とは異なる音楽表現を追求した。
このプロジェクトは、彼の別の自己表現として位置づけられ、Prefuse 73 の実験性との関係性も含め多面的な音楽活動を示す。
Prefuse 73 の誕生と初期作品
2001年、Herren は Prefuse 73 名義でデビューアルバム Vocal Studies + Uprock Narratives を発表。
MPC を駆使した断片的サンプル、ボーカルの切り貼り、グリッチ処理が特徴で、多くのゲストアーティストを迎えながらも独自の世界観を構築した。
続いて 2002年には EP The ’92 vs. ’02 Collection を発表。電子ノイズや実験的ビートを強化した内容となった。
2003年、重要アルバム One Word Extinguisher をリリース。未使用テイクやリミックスをまとめた Extinguished: Outtakes も同時に発表。
この作品群は、サンプル断片化と緻密なビートの構築をさらに進化させ、IDM とヒップホップの橋渡し的役割を果たした。
中期:コラボレーションと実験性の深化
2005年の Surrounded by Silence では Ghostface Killah、El-P、Kazu(Blonde Redhead)、The Books など多彩なゲストを迎え、音の世界を拡張。
同年、The Books とのコラボレーション EP Prefuse 73 Reads the Books を発表し、彼のコラボ精神と実験性が顕著となる。
2006年、長さはアルバム級だが EP 扱いの Security Screenings をリリース。
2007年には Preparations を発表、ボーナスディスク Interregnums ではアンビエント志向の音楽を提示した。
レーベル設立と新展開
Herren は Eastern Developments Music を設立し、共同でレーベル運営を開始。さらに Yellow Year Records を立ち上げ、コラボレーションシリーズ Speak Soon を展開。
新レーベルでは Teebs との Sons of the Morning Volume 1 など、多様なクリエイターとのコラボレーションが可能となり、実験性の拡張が促された。
復帰と近年のリリース
2015年、アルバム Rivington Não Rio と EP Forsyth Gardens、Every Color of Darkness を同時発表。
2018年には Sacrifices を発表し、初期 Prefuse 73 のスパースなビートや切り貼りの手法への回帰を示す。
2024年には New Strategies for Modern Crime Vol. 1 および Vol. 2 をリリースし、再び新しい実験的アプローチを展開している。
アリアス/並行プロジェクト一覧
| 名義/プロジェクト | 特徴・役割 |
|---|---|
| Prefuse 73 | 断片化ボーカル、グリッチ、ヒップホップ/IDM融合 |
| Delarosa & Asora | 初期キャリア、実験的テクノ、電子音楽 |
| Savath & Savalas | アンビエント/民族音楽的、アコースティック中心 |
| Piano Overlord | ピアノ主体、鍵盤中心のプロジェクト |
| Ahmad Szabo | 別名義、多作家としての多様性 |
| その他コラボレーション | Sons of the Morning、Fudge、Risil、Diamond Watch Wrists 等 |
音楽スタイルと影響
- ヒップホップ(1990年代)、マイアミベース、IDM、ジャズを融合。
- サンプルやボーカルを極小単位で切り貼りして再構成する技術が特徴。
- 単なる実験音楽ではなく、断片の中に都市的感情や人間性を表現。
- コラボレーションを通じて音楽的幅を拡張し、新世代クリエイターとも接点を持つ。
まとめ
Scott Herren / Prefuse 73 は、21世紀のビート音楽において非常に重要な存在であり、単なるプロデューサー以上の作曲家/音響詩人である。多彩なプロジェクトやレーベル運営、復帰作を通じて、自己刷新と実験性を絶えず続けている。今後も、新たなコラボレーションや実験作品の発表が期待される。