LFOとは何だったのか
文:mmr|テーマ:1980年代末のリーズから始まり、低音と電子音でテクノの輪郭を変えたLFOの軌跡を追う。
LFOという名前を聞くと、電子楽器のパラメーターを周期的に揺らす「Low Frequency Oscillator」を思い浮かべる人も多い。
実際、LFOという言葉はシンセサイザーや電子音楽の世界では非常に一般的な技術用語だ。
しかし1990年代初頭、この3文字は別の意味でも知られるようになった。
イギリス、リーズから登場した電子音楽ユニット、LFOである。
Mark BellとGez Varleyによって1988年に結成されたLFOは、Warp Recordsから1990年にシングル「LFO」を発表し、翌1991年にアルバム『Frequencies』を発表した。
その音楽は、当時のダンスミュージックに存在していたリズム、低音、機械音、反復という要素を極端なまでに前面へ押し出した。
特に特徴的だったのは、低音が単なる伴奏ではなかったことだ。
ベースは曲を支えるものではなく、曲そのものの構造を作る。
キックは拍を刻むだけではなく、空間を押し動かす。
シンセサイザーは旋律を歌うためだけではなく、音色そのものを物体のように配置する。
LFOの音楽を聴くと、メロディーより先に「音の形」が耳に残ることがある。
それは、ダンスミュージックを「曲」として考えるだけでなく、「音響空間」として考える方法でもあった。
LFOは短期間に大量のアルバムを発表したグループではない。
主要なスタジオ・アルバムは『Frequencies』『Advance』『Sheath』の3枚。
しかし、その3枚の間には、それぞれ大きな時間の隔たりがある。
1991年の『Frequencies』から1996年の『Advance』まで5年。
さらに『Advance』から2003年の『Sheath』まで7年。
そのためLFOの歴史は、作品数の多さではなく、一つの音楽的アイデアがどのように変化していったかを見る歴史でもある。
LFOの歴史は、テクノを大量生産した歴史ではない。少ない作品で、電子音の「重さ」と「形」を変えていった歴史である。
1988年、リーズで始まった二人
LFOの出発点はロンドンではない。
リーズだった。
Mark BellとGez Varleyはリーズで出会い、1988年にLFOを結成した。
二人が活動を始めた時期は、イギリスのクラブカルチャーとハウス、テクノ、アシッドハウスなどが急速に広がっていた時代だった。
しかしLFOは、既存のダンスミュージックをそのまま再現する方向には進まなかった。
彼らが強く意識したのは、音そのものだった。
特に重要だったのがドラムマシンとシンセサイザーだった。
Mark Bellは後に、若い頃からドラムマシンを使っていたことについて語っている。
当時の彼らにとって機材は、必ずしも高度な音楽理論を実現するための装置ではなかった。
ドラムマシンを叩き、音を並べ、テープに録音する。
そのような実験の延長線上にLFOの初期音源があった。
そして、その音源がクラブで機能することを示した人物がDJ Martinだった。
彼らは自分たちの録音テープをDJ Martinに渡し、彼がクラブでプレイした。
そこでLFOの音は、家庭で聴くデモテープとは違う意味を持った。
大きな音量で鳴らされる低音。
反復されるキック。
短いフレーズ。
鋭い電子音。
クラブという巨大な再生環境によって、音の物理的な性質が前面に出た。
この段階でLFOの音楽は、単なる実験音源ではなく、ダンスフロアで機能する電子音楽になっていった。
「LFO」がクラブからチャートへ出た
1990年、LFOはWarp Recordsからシングル「LFO」を発表した。
Warpは当時、シェフィールドを拠点として新しい電子音楽を発表していたレーベルだった。
LFOの「LFO」は、その名前そのものをタイトルにしていた。
そして、その音もまた非常に直接的だった。
細かい説明を必要とする音楽ではない。
低い周波数。
強いビート。
電子的な音色。
反復。
そして突然変化する音。
タイトルと音の関係が非常に明確だった。
このシングルはイギリスのシングルチャートで12位に達した。
アンダーグラウンドのクラブ音楽から生まれた音が、一般的なポップミュージックのチャートに入ったことになる。
ここには、1990年代初頭のイギリス電子音楽が持っていた特殊な状況が表れている。
クラブとポップの距離が急速に縮まっていた。
ダンスミュージックは、単に夜のクラブで消費される音楽ではなくなりつつあった。
12インチ・シングル、DJ、ラジオ、チャート、レーベル、クラブ。
それらが互いにつながっていた。
LFOは、その接続点の一つになった。
さらに重要なのは、「LFO」という曲がボーカル中心のポップソングではなかったことだ。
人間の声による歌唱を中心に置かず、電子音そのものを主役にした。
これは後のLFOの作品にも共通する特徴になる。
Warp RecordsとLFO
LFOを語るうえでWarp Recordsを切り離すことはできない。
LFOの最初の重要作品の多くはWarpから発表された。
公式ディスコグラフィーでは、1991年の『Frequencies』がWARP3、1996年の『Advance』がWARP39、2003年の『Sheath』がWARP110として記録されている。
これは単なるレーベルとアーティストの関係以上に重要だった。
Warpは、電子音楽を単なるクラブ向けの機能音楽としてではなく、アルバム単位で聴く対象として提示するレーベルの一つだった。
その環境の中でLFOは、ダンスフロア向けの12インチとアルバム作品の間を行き来した。
シングルでは一つの音のアイデアを強く押し出す。
アルバムでは、そのアイデアを長い時間の中で変化させる。
この違いがLFOの作品を特徴づけていく。
LFOの音楽には、クラブミュージックの即効性がある。
しかし同時に、スタジオで音を加工することそのものを楽しむ実験性もある。
この二つが同時に存在していた。
1991年『Frequencies』
LFOの最初のアルバム『Frequencies』は1991年に発表された。
Warpの公式アーカイブでは14曲入りのアルバムとして記録されている。
二人が録音した当時の年齢は19歳だったとされる。
これは『Frequencies』を考えるうえで重要な数字だ。
なぜなら、この作品は完成された大人のスタジオミュージシャンが長年の経験をまとめた作品ではないからだ。
若い二人が、当時利用できた電子楽器と録音環境を使って、クラブで機能する音を作っていた。
『Frequencies』というタイトルも象徴的だ。
「曲」よりも「周波数」。
「歌」よりも「音」。
人間の声よりも機械。
旋律よりも低音。
もちろんアルバムにはさまざまな展開がある。
しかし全体を通して感じられるのは、音楽を構成する最小単位への関心だ。
キックの質感。
ベースの太さ。
ハイハットの位置。
シンセサイザーの音色。
空間の広がり。
それぞれを細かく組み合わせることで、一つの巨大な音響空間を作る。
『Frequencies』は、テクノを「未来的な音楽」として説明するだけでは足りない。
それは、当時の電子楽器が持っていた物理的な性質を、そのまま音楽の中心に持ってきた作品でもある。
「Bleep」という音の考え方
LFOについて語る際、「bleep techno」という言葉がしばしば使われる。
これは、1980年代末から1990年代初頭のイギリスで発展した、低音の強いテクノ/エレクトロニック・ダンスミュージックの流れを指す言葉として使われてきた。
LFOはその代表的な存在の一つとされる。
ただし、bleepという言葉だけではLFOの音を完全には説明できない。
重要なのは、音の高さよりも音の存在感だ。
電子音は短い。
しかし短いから弱いわけではない。
むしろ短い音を大音量で鳴らすことで、その輪郭が強調される。
「ピー」という音。
「ブーン」という低音。
機械的なノイズ。
短いシーケンス。
それらが繰り返される。
通常のポップミュージックでは、音は歌やメロディーを支える役割を持つ。
LFOでは、その役割が逆転する。
音そのものが曲を構成する。
だから、LFOの音楽では「何を歌っているか」という問いが中心にならない。
代わりに、
どんな周波数なのか。
どんなリズムなのか。
どれくらい低いのか。
どの瞬間に音が入るのか。
どの音が消えるのか。
という問いが重要になる。
この考え方は、その後の電子音楽にも大きな影響を与えた。
『Frequencies』はなぜアルバムとして重要だったのか
『Frequencies』の重要性は、単に「有名なテクノ作品だから」ということではない。
ダンスミュージックをアルバムとして成立させる方法を示したことにある。
クラブで使われる音楽は、しばしば一曲単位で考えられる。
DJは曲を選び、次の曲につなげる。
そのため一曲のグルーヴが非常に重要になる。
一方、アルバムでは複数の曲が並ぶ。
そこで必要になるのが、音楽的な統一感だ。
『Frequencies』では、異なる曲の中に共通する音響的な感覚が存在する。
低音。
電子音。
反復。
機械的なリズム。
そして、音色そのものを楽しむ姿勢。
そのため、個々のトラックを聴くことと、アルバム全体を一つの音響作品として聴くことが両立する。
これは後にWarpが発展させていく電子音楽のアルバム文化ともつながっていく。
1990年代前半のLFO
『Frequencies』以降、LFOは複数のシングルや作品を発表した。
「We Are Back」は1991年に発表され、イギリスのシングルチャートで47位に入った。
1992年には「What Is House?」EPが発表された。
1994年には「Tied Up」が発表された。
この時期のLFOは、デビュー作の成功をそのまま繰り返す方向には進まなかった。
むしろ、作品の間隔が広がっていった。
ここがLFOの歴史の特徴でもある。
『Frequencies』は1991年。
次のアルバム『Advance』は1996年。
5年の間がある。
電子音楽の世界では、5年という時間は非常に長い。
機材も変わる。
クラブの流行も変わる。
音楽ジャンルの呼び方も変わる。
それでもLFOは戻ってきた。
そして、その戻ってきた作品は『Frequencies』の単純な続編ではなかった。
1996年『Advance』
『Advance』は1996年1月29日にWarpから発表された。
Warpの公式アーカイブでは12曲入りの作品として記録されている。
『Frequencies』と『Advance』の間には5年の時間があった。
その間、LFOをめぐる期待も大きくなっていた。
しかし『Advance』は、デビュー作の音をそのまま再現する作品ではない。
むしろ、音響空間をさらに拡張した作品だった。
リズムだけではなく、音の長さ。
低音だけではなく、空間。
短い電子音だけではなく、持続する音。
LFOの音楽はより複雑になっていった。
『Advance』というタイトルは、その方向性を象徴する。
ただし、ここでいう「Advance」は単純な技術進歩という意味だけではない。
LFO自身が、最初の作品で作った方法を繰り返さないために、音楽の構造を変えていった。
この作品ではMark Bellが中心となって制作を進めた。
また、1996年の『Advance』はGez Varleyが参加した最後のLFOアルバムとなった。Varleyはその後LFOを離れ、以降のLFO作品はMark Bellによって制作されることになる。
LFOの二人からMark BellのLFOへ
ここでLFOの歴史は大きく変わる。
1988年から1996年までは、Mark BellとGez Varleyの二人によるユニットだった。
しかし1996年以降、LFOはMark Bellによるプロジェクトへ移行する。
この変化は、単なるメンバー交代ではない。
同じ名前を使いながら、制作主体が変わったからだ。
そのためLFOの作品を年代順に聴くと、
初期LFO
↓
『Frequencies』
↓
『Advance』
↓
Mark BellによるLFO
↓
『Sheath』
という変化が見えてくる。
名前は同じ。
しかし制作の体制は違う。
そして音楽も変化している。
これは電子音楽における「バンド」という概念を考えるうえでも興味深い。
ロックバンドなら、ギタリストやドラマーなどのメンバー構成が音楽の外形を決める。
しかし電子音楽では、プロジェクト名が一人の制作者によって継続される場合がある。
LFOは、その変化をはっきり示した例だった。
Mark Bellというプロデューサー
LFOをMark Bellだけの名前として理解することもできる。
しかし、Mark BellはLFO以外でも重要な制作活動を行った。
特に知られているのがBjörkとの仕事だ。
『Advance』の制作時期には、Mark BellがLFOのデモ音源をBjörkに渡していた。
Björkはその素材を使い、後に「I Go Humble」となる曲を制作した。
その素材はさらにLFOの『Advance』にも別の形で登場している。
これはLFOの音楽が、単独のダンスミュージック作品としてだけでなく、他のアーティストの音楽制作にも接続していたことを示している。
またMark BellはDepeche Modeの『Exciter』の制作にも関わった。
つまりLFOは、Mark Bellにとって唯一の活動場所ではなかった。
LFOという名前の外側でも、彼は電子音とポップミュージックの境界に関わっていた。
2003年『Sheath』
『Advance』から7年後。
2003年、LFOは『Sheath』を発表した。
Warpの公式アーカイブでは11曲入り、2003年9月22日リリースのアルバムとして記録されている。
『Sheath』はLFOの3枚目にして最後のスタジオ・アルバムとなった。
そして、この作品はMark Bell単独で制作されたLFO作品だった。
『Frequencies』から考えると12年。
『Advance』から考えると7年。
LFOは非常に長い時間をかけて3枚目のアルバムに到達した。
この時点で、LFOは1991年のデビュー時とはまったく違う時代にいた。
テクノは世界中に広がっていた。
電子音楽の制作環境も大きく変わっていた。
しかし『Sheath』には、初期LFOにつながる要素も残っている。
低音。
機械的なリズム。
電子音。
そして、音を物体のように扱う姿勢。
『Sheath』の音はなぜ違って聴こえるのか
『Sheath』には、「Blown」「Mum-man」「Mokeylips」「Snot」「Moistly」「Unafraid To Linger」「Sleepy Chicken」「Freak」「Mummy, I’ve Had An Accident…」「Nevertheless」「’Premacy」という11曲が収録されている。
タイトルだけを見ると、非常に奇妙な印象を受ける。
しかしLFOの音楽では、タイトルが音の説明になるとは限らない。
むしろ、タイトルと音の間に距離がある。
『Sheath』の音楽も同じだ。
機械的でありながら、完全に冷たいわけではない。
激しい部分がありながら、音の隙間もある。
低音が強い一方で、空間的な音も存在する。
それによって、LFOの音楽は単なるクラブトラックとは違う表情を持つ。
2003年という時点で、LFOはすでに「新しい音」を作る新人ではなかった。
それでもMark Bellは、1990年代初頭の音をそのまま再現するのではなく、別の音響環境へLFOを持っていった。
「Freak」と映画
『Sheath』収録曲の中でも「Freak」は特に知られている。
この曲は2003年にシングルとしても発表された。
そして2009年、Gaspar Noé監督の映画『Enter the Void』のオープニング・タイトルで使用された。
ここにはLFOの音楽が持つ別の性格が見える。
クラブで鳴らされる音楽は、身体を動かすために使われる。
しかし映画では、同じ音が映像を見るための心理的な空間を作る。
低音。
反復。
電子音。
これらはダンスフロアだけでなく、映像作品の世界観を作るためにも使える。
LFOの音楽が持っていた物理性は、映画のタイトルシークエンスにも適していた。
音楽が「曲」として存在するだけではなく、空間そのものを作る。
これはLFOの初期作品から一貫していた特徴の一つでもある。
LFOのサウンドを構造で見る
LFOの音楽を、いくつかの要素に分解してみると分かりやすい。
この構造を見ると、LFOの音楽が単純な「テクノ」だけでは説明しにくい理由が分かる。
低音だけならベースミュージックになる。
リズムだけならダンスミュージックになる。
電子音だけなら実験音楽になる。
しかしLFOでは、それらが一つの構造として組み合わされる。
そして中心にあるのが、音そのものへの関心だ。
LFOと「低音」の意味
LFOを理解するために、低音を単なるベースとして考えないことが重要だ。
低音は耳だけでなく身体でも感じる。
特にクラブの大音量環境では、キックやベースは空間全体を振動させる。
LFOの音楽は、その物理的な性質を非常に強く利用した。
低音はコード進行を支えるためだけに存在しない。
それ自体がイベントになる。
音が鳴った瞬間、空間の感覚が変わる。
低音が消えると、同じリズムでも印象が変わる。
だからLFOの作品では、音数の多さよりも、どの音をどこに置くかが重要になる。
これは現代のベースミュージックにも通じる考え方だ。
しかしLFOが活動を始めた1980年代末から1990年代初頭には、こうした低音中心の電子音楽はまだ現在ほど一般化していなかった。
LFOは、その可能性をアルバム作品として提示した。
音を「楽器」にする
通常、楽器は音楽を演奏するために存在する。
ギターなら弦を鳴らす。
ピアノなら鍵盤を押す。
ドラムなら打面を叩く。
しかし電子音楽では、音色そのものを設計できる。
LFOは、この特徴を非常に強く利用した。
一つのシンセサイザー音を「メロディーを演奏する音」としてではなく、一つの音響物体として扱う。
短い音。
長い音。
低い音。
高い音。
歪んだ音。
乾いた音。
空間に広がる音。
それぞれを配置する。
こうして音楽は、旋律の組み合わせだけではなくなる。
音響デザインそのものが作曲になる。
LFOの重要性は、この考え方をクラブミュージックの文脈で非常に強く提示したことにもある。
「What Is House?」という問い
LFOには「What Is House?」というタイトルの作品がある。
タイトル自体が問いになっている。
「ハウスとは何か?」
これは単なるジャンル名の確認ではない。
ハウスという言葉が、どのような音を意味するのか。
どのようなリズムを持つのか。
どこまで変形してもハウスと呼べるのか。
そうしたジャンルの境界に対する疑問として読むことができる。
ただし、ここで重要なのはLFOを特定のジャンルに固定しないことだ。
テクノ。
ハウス。
エレクトロ。
ブリープ。
IDM。
こうしたジャンル名は、LFOの音楽を説明するために役立つ。
しかしLFO自身の音楽は、ジャンル名より先に「音」がある。
低音をどう鳴らすか。
ドラムをどう配置するか。
シンセサイザーをどう加工するか。
その結果としてジャンルの境界を越えていく。
LFOの年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1988 | Mark BellとGez VarleyがLFOを結成 |
| 1990 | Warp Recordsから「LFO」を発表 |
| 1991 | 「We Are Back」発表 |
| 1991 | 1stアルバム『Frequencies』発表 |
| 1992 | 「What Is House?」EP発表 |
| 1994 | 「Tied Up」発表 |
| 1996 | 2ndアルバム『Advance』発表 |
| 1996 | Gez VarleyがLFOを離れる |
| 2003 | Mark Bellによる『Sheath』発表 |
| 2003 | 「Freak」発表 |
| 2005 | LFO / AFX名義の12インチ作品が発表される |
| 2009 | 「Freak」が映画『Enter the Void』のオープニングで使用される |
| 2009 | Warp20関連作品でLFOの初期曲が再解釈される |
| 2014 | Mark Bell死去 |
| 2019 | WarpからLFOのPeel Session作品が発表される |
LFOの歴史を年表にすると、作品数の少なさが逆に目立つ。
しかし、その空白は活動が存在しなかったことを意味しない。
Mark BellはLFO以外のアーティストとの制作にも関わっていた。
また、LFO名義の作品が少ないからこそ、一つのアルバムが長い期間にわたって参照され続けた。
LFOの作品年表を音楽的に見る
この流れで重要なのは、1991年、1996年、2003年という三つのアルバムの間隔だ。
5年。
7年。
LFOは常に新作を発表し続けるプロジェクトではなかった。
むしろ、長い沈黙の後に音楽的な方向を変えて戻ってくるプロジェクトだった。
二人組からソロへ
LFOの初期作品には、二人の存在がある。
Mark BellとGez Varley。
しかし『Advance』以降は、その構造が変わる。
Gez Varleyが離れた後、Mark BellはLFOの名前を継続した。
ここには、電子音楽ならではの問題がある。
「バンド」と「プロジェクト」は同じなのか。
名前が同じなら同じアーティストなのか。
メンバーが変われば別のアーティストなのか。
LFOの場合、答えは単純ではない。
名前は継続している。
しかし制作主体は変わった。
そして音楽も変わった。
そのためLFOの3枚のアルバムは、一つのバンドの連続した作品というより、同じプロジェクト名の下で行われた異なる時期の音楽として聴くこともできる。
『Frequencies』から『Sheath』まで
三枚のアルバムを並べると、LFOの変化が見えてくる。
| 作品 | 年 | 制作体制 | 中心となる特徴 |
|---|---|---|---|
| Frequencies | 1991 | Mark Bell / Gez Varley | ブリープ、低音、クラブ・ミュージック |
| Advance | 1996 | Mark Bell中心 | 音響空間の拡張、より複雑な構造 |
| Sheath | 2003 | Mark Bell | より個人的で広い音響世界 |
ここで重要なのは、「初期のほうがシンプルで、後期のほうが複雑」という単純な進化ではない。
LFOは同じ音楽を高度化していったわけではない。
むしろ、何を音楽の中心に置くかが変わった。
『Frequencies』では、クラブで鳴る音の強さが目立つ。
『Advance』では、スタジオで作られる音響構造がより重要になる。
『Sheath』では、Mark Bell個人による音響作品としての性格が強くなる。
この変化が、3枚をそれぞれ別の作品として聴く理由になる。
1990年代の「未来的な音」
LFOが登場した1990年代初頭、電子音楽は未来の音として語られることが多かった。
シンセサイザー。
ドラムマシン。
サンプラー。
シーケンサー。
コンピューター。
これらの機材は、人間の演奏を補助するだけではなく、人間とは異なる方法で音を作ることができた。
LFOの音楽も、その未来感と結びついていた。
しかし現在から聴くと、当時の音は必ずしも未来的には聴こえない。
むしろ非常に物理的だ。
低音は重い。
ドラムマシンは機械的だ。
シンセサイザーの音は電子楽器特有の質感を持つ。
この逆説がLFOの面白さでもある。
未来のために作られた電子音が、現在では1990年代という過去の音として聴こえる。
それでも音の構造は古くならない。
LFOと「機械の身体」
LFOの音楽を聴くと、人間の身体と機械の関係について考えさせられる。
ダンスミュージックは、人間の身体を動かす。
しかしリズムを作っているのは機械だ。
ドラムマシンが一定の間隔でキックを鳴らす。
シーケンサーが音を繰り返す。
シンセサイザーが低音を発生させる。
人間はその反復に合わせて身体を動かす。
つまり、
機械がリズムを作る。
人間が動く。
人間の身体が、機械の反復によって組織される。
LFOの低音中心の音楽は、この関係を非常に分かりやすくする。
音楽は耳だけで聴くものではない。
身体で感じるものでもある。
低音は「背景」ではない
ポップミュージックでは、低音はしばしば全体を支える役割を持つ。
しかしLFOでは、低音が前景に出る。
これによって音楽の重心が変わる。
高い音は耳に届く。
低い音は身体に届く。
その違いを利用することで、同じリズムでも違う物理感覚を作ることができる。
LFOの音楽では、低音の存在によって曲全体が大きく感じられる。
音数が多いから大きいのではない。
一つ一つの音が物理的に大きく感じられるからだ。
これはLFOを理解するうえで重要なポイントだ。
LFOはなぜ長く残ったのか
LFOの作品数は多くない。
しかし1991年の『Frequencies』は、その後も電子音楽史の中で繰り返し語られてきた。
その理由の一つは、音楽が特定の流行だけに依存していなかったことにある。
「1991年の流行を再現する」ことではなく、
低音をどう作るか。
リズムをどう反復させるか。
電子音をどう配置するか。
という、より基本的な問題を扱っている。
だから時代が変わっても聴き直すことができる。
機材は古くなっても、構造は古くならない。
LFOとWarpの歴史
LFOの歴史はWarp Recordsの歴史とも重なる。
WarpはLFOだけを発表したレーベルではない。
しかしLFOは、その初期Warpを象徴する存在の一つだった。
電子音楽をクラブだけのものにせず、アルバムとして提示する。
実験性を残しながら、ダンスフロアで機能する。
そして、アーティストが既存のジャンルの境界を越えることを許容する。
LFOはその環境の中で活動した。
Warpの公式アーカイブには現在もLFOの『Frequencies』『Advance』『Sheath』が主要作品として掲載されている。
また2019年にはLFOのPeel SessionもWarpから発表されている。
これは、LFOの活動が1990年代だけの出来事として閉じていないことを示している。
John PeelとLFO
LFOにはPeel Sessionの記録もある。
John Peelはイギリスのラジオ史において、実験的な音楽や新しいアーティストを紹介した重要な存在だった。
LFOがPeel Sessionに参加したことは、彼らの音楽がクラブだけでなく、ラジオという別のリスニング環境にも入っていたことを意味する。
クラブでは巨大な音量と低音が重要になる。
ラジオでは、限られた再生環境の中で音楽を成立させる必要がある。
同じ音でも、再生環境によって意味が変わる。
LFOの音楽は、その違いを越えて残る構造を持っていた。
LFO / AFX
2005年にはLFOとAphex Twinによる作品も発表された。
これはLFOの歴史の中では小さな出来事に見える。
しかし、1990年代のイギリス電子音楽を考えると重要な接点でもある。
LFOとAphex Twinは、ともにWarp Recordsと強く結びついた電子音楽の歴史を持っている。
ただし、二つの音楽は同じではない。
LFOは低音、ブリープ、クラブ的な反復を強く持つ。
Aphex Twinはリズム、メロディー、音響処理、実験的構成をさまざまな方向へ展開した。
その二つが交差することで、Warp周辺の電子音楽が単一のジャンルではなかったことも分かる。
LFOと映画音楽的な空間
「Freak」が映画『Enter the Void』に使用されたことは、LFOの音楽の別の可能性を示している。
ダンスミュージックは基本的に反復する。
映画もまた、反復や時間の流れによって観客の感覚を操作する。
そのため、LFOの音楽が映画に使われても不思議ではない。
低音は画面の外側まで広がる。
反復するビートは映像に時間的な方向を与える。
電子音は現実の場所とは違う空間を作る。
LFOの音は、クラブのためだけの音ではなく、映像空間を作る音にもなる。
2014年、Mark Bellの死
2014年10月、Mark Bellが死去した。
享年43歳だった。
これによってLFOの活動も事実上終わった。WarpもMark Bellの死去を発表している。
これはLFOの歴史における決定的な終点となった。
LFOは、Mark BellとGez Varleyによる二人組として始まった。
その後、Mark Bell一人によるプロジェクトへ変わった。
そしてMark Bellの死によって、そのプロジェクトも終わった。
この流れを振り返ると、LFOという名前の中心にMark Bellが存在していたことが分かる。
しかし、その歴史はMark Bell一人だけでは説明できない。
Gez Varleyとの初期活動。
DJ Martinとの関係。
Warp Recordsという環境。
クラブカルチャー。
1990年代イギリス電子音楽。
それらが重なってLFOという音が生まれた。
LFOの歴史を一本の線で見る
リーズ"] --> B["Mark Bell + Gez Varley"] B --> C["DJ Martin"] C --> D["Warp Records"] D --> E["1990
LFO"] E --> F["1991
Frequencies"] F --> G["1996
Advance"] G --> H["Gez Varley離脱"] H --> I["Mark Bell"] I --> J["2003
Sheath"] J --> K["2005
AFX / LFO"] J --> L["2009
Freak"] L --> M["Enter the Void"] I --> N["2014
Mark Bell死去"] N --> O["LFOの活動終了"]
この一本の線を見ると、LFOは単純な「1990年代のテクノ・デュオ」ではないことが分かる。
最初は二人組だった。
その後、一人のプロジェクトになった。
そして、その一人の制作活動がLFOの名前を維持した。
LFOという名前は変わらなかったが、その内部構造は変わった。
LFOをジャンル名だけで説明できない理由
LFOについて調べると、
テクノ。
ブリープ・テクノ。
IDM。
エレクトロニック・ミュージック。
こうした言葉が並ぶ。
どれも一定の説明力を持っている。
しかし、どれか一つだけではLFOを説明できない。
なぜならLFOの音楽の中心にあるのは、ジャンルではなく音響的な発想だからだ。
低音を前面に出す。
機械的なリズムを使う。
電子音を旋律ではなく音響物体として扱う。
反復によって身体感覚を作る。
スタジオで音色を加工する。
そして、その音をアルバムという長い時間の中に配置する。
これらの要素が組み合わさってLFOになる。
「Frequencies」というタイトルが残したもの
『Frequencies』というタイトルは、LFOというアーティストの性格を非常によく表している。
周波数。
つまり音を物理現象として考える。
音楽は感情だけではない。
音圧でもある。
振動でもある。
波形でもある。
周波数でもある。
LFOはこの物理的な側面を隠さなかった。
むしろ前面に出した。
その結果、聴き手は曲を「メロディー」だけではなく「振動」として感じることになる。
これは電子音楽の重要な特徴の一つだ。
そしてLFOは、その特徴を非常に分かりやすい形で提示した。
LFOの音楽を聴くときに注目したい5つの要素
1. キック
まずキックを聴く。
リズムを刻む音としてではなく、空間を押す音として聴く。
どの瞬間に鳴るのか。
どれくらい低いのか。
次の音までどれくらい空いているのか。
2. ベース
次に低音を聴く。
メロディーとしてではなく、曲全体の重心として聴く。
ベースが入った瞬間、音楽のサイズが変わるかどうか。
3. 短い電子音
「ピー」「ブリープ」と聞こえるような短い音に注目する。
短い音でも、配置によって曲の構造を作ることができる。
4. 空白
LFOでは音が鳴っていない部分も重要だ。
すべてを埋めるのではなく、音と音の間に空間を残す。
その空白が次の低音を大きく感じさせる。
5. 反復
最後に反復を聴く。
同じパターンが繰り返されることで、聴き手の身体がその構造を予測する。
そして、ほんの少しの変化が大きく感じられる。
LFOのディスコグラフィー
| 年 | 作品 | 種類 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1990 | LFO | シングル | Warpから発表 |
| 1991 | Frequencies | アルバム | 1stアルバム |
| 1991 | We Are Back | シングル | 1991年発表 |
| 1992 | What Is House? | EP | ジャンルへの問いをタイトル化 |
| 1994 | Tied Up | シングル | 1994年発表 |
| 1996 | Advance | アルバム | 2ndアルバム |
| 2003 | Freak | シングル | 『Sheath』収録 |
| 2003 | Sheath | アルバム | 3rd、最終スタジオ・アルバム |
| 2005 | AFX / LFO | 12インチ作品 | Aphex Twinとの共同作品 |
| 2009 | LFO | 作品 | Warpから4曲入り作品として再発 |
| 2019 | Peel Session | セッション作品 | Warpから発表 |
主要アルバム3作はWarpの公式アーカイブでも確認できる。『Frequencies』はWARP3、『Advance』はWARP39、『Sheath』はWARP110として掲載されている。
3枚のアルバムを聴き比べる
Frequencies
『Frequencies』は、LFOという名前が最も直接的に音になった作品だ。
低音。
ビート。
ブリープ。
反復。
クラブ。
1991年の電子音楽が持っていたエネルギーが凝縮されている。
Advance
『Advance』では、LFOの音がより広い空間へ移動する。
リズムだけでなく、音響そのものが重要になる。
また、この作品はGez Varleyが参加した最後のアルバムとなった。
Sheath
『Sheath』はMark BellによるLFO。
2003年の作品として、初期LFOとは違う時間感覚を持っている。
それでも低音、電子音、リズムという中心的な要素は残っている。
この3枚を続けて聴くと、LFOという名前が同じままでも、音楽の作り方が変わっていったことが分かる。
LFOは「未来の音」ではなく「音の未来」を作った
1990年代にLFOを聴けば、未来的に聞こえた。
現在聴くと、むしろ歴史的な音に聞こえる。
しかし、それはLFOの音が古くなったという意味ではない。
当時、LFOが提示した問題は現在も残っている。
低音をどう作るか。
機械的なリズムをどう人間の身体と結びつけるか。
電子音をどこまで音楽として扱えるか。
メロディーを使わずに曲を成立させられるか。
反復だけで時間を作れるか。
これらは現在の電子音楽でも繰り返し問われている。
つまりLFOが未来的だったのは、単に「新しい音色」を使ったからではない。
音楽を作るときに何を中心に置くか、その考え方そのものを変えたからだ。
LFOが残したもの
LFOの作品は決して大量ではない。
しかし、その影響を考えるときに重要なのは作品数ではない。
1990年の「LFO」。
1991年の『Frequencies』。
1996年の『Advance』。
2003年の『Sheath』。
この限られた作品群の中に、1990年代以降の電子音楽を考えるための多くの要素が存在する。
低音を主役にすること。
ドラムマシンを身体のリズムに接続すること。
電子音を音響物体として扱うこと。
クラブ音楽をアルバムとして聴かせること。
ジャンル名より音そのものを優先すること。
そして、一つの名前の下で制作主体が変化しても、プロジェクトを継続できること。
LFOの歴史は、電子音楽が「歌のないポップミュージック」からさらに先へ進んでいく過程の一部だった。
LFOを聴くということ
LFOを初めて聴く人にとって、最初に分かりやすいのは低音かもしれない。
次にビート。
その後に電子音。
しかし何度か聴くと、別のものが見えてくる。
音と音の間。
反復の微妙な変化。
音色の違い。
空間の奥行き。
そして、どの音を鳴らさないかという判断。
LFOの音楽は、派手な音をたくさん並べることによって強くなっているわけではない。
むしろ、限られた音を強く配置する。
低音を置く。
キックを置く。
電子音を置く。
空白を作る。
また鳴らす。
その単純な構造が、巨大な音響空間を作る。
だからLFOは、電子音楽を理解するための一つの入口になる。
1991年から現在まで続く問い
LFOの『Frequencies』が発表された1991年から、すでに30年以上が経過している。
当時の機材は古くなった。
クラブの環境も変わった。
音楽の配信方法も変わった。
しかし、低音という問題は消えていない。
リズムという問題も消えていない。
電子音をどう音楽にするかという問題も消えていない。
むしろコンピューターやソフトウェアによって、音を作る自由度はさらに増えた。
だからこそ、LFOの音楽は現在でも聴き直すことができる。
機材を真似する必要はない。
1991年の音を再現する必要もない。
重要なのは、LFOが音楽をどこから考え始めたかだ。
メロディーからではない。
歌詞からでもない。
まず音。
そして周波数。
リズム。
低音。
空間。
そこから音楽を作る。
LFOという名前の最後
LFOは1988年にMark BellとGez Varleyによって始まった。
1990年にWarp Recordsから「LFO」を発表した。
1991年に『Frequencies』を発表した。
1996年に『Advance』を発表し、その後Gez Varleyが離れた。
2003年にはMark Bell単独による『Sheath』を発表した。
そして2014年、Mark Bellが死去した。
この歴史は、非常に短い文章でも説明できる。
しかし、その中にはイギリスのクラブカルチャー、Warp Records、テクノ、ハウス、電子楽器、低音、スタジオ制作、映画、ラジオ、そして1990年代以降の電子音楽史が重なっている。
LFOの音楽は、未来を予言した音楽というより、電子音楽が何を音楽として扱えるのかを実際に試した音楽だった。
そして、その問いは現在も残っている。
音楽に必要なのは、歌なのか。
メロディーなのか。
人間の演奏なのか。
それとも、振動そのものなのか。
LFOはその答えを言葉で説明しなかった。
代わりに、低音を鳴らした。
機械を鳴らした。
リズムを繰り返した。
そして、音そのものを前面に出した。
LFOが残した最も大きなものは、特定のジャンルではない。音そのものを主役にしても、音楽は成立するという実践だった。