【コラム】 Gong伝説:時代・神話・サウンドと共同体

Column 60s 70s Jazz Progressive
【コラム】 Gong伝説:時代・神話・サウンドと共同体

1. 導入:科学者としての音楽家

文:mmr|テーマ:デヴィッド・アレンとギリ・スミスが築いた“宇宙的共同体”Gong。その神話とサウンド、そして60年代から現代への継承について

“We were a flying teapot sailing through the revolution.”
― Daevid Allen


目次


第1章 1960年代末フランス――高揚と混沌の革命期

1960年代末、パリは革命の実験場であった。
大学紛争、ストリート・アクション、アートの解放――「五月革命」の熱気が若者たちを包み込み、音楽と詩と政治が混然一体となる。

Gongの誕生はまさにその只中であった。反体制・アナーキー・精神世界・コミューン文化。これらが混ざり合い、Gongは“音による共同幻想”を体現していく。

🎵 推奨音源: Magick Brother (1969), Camembert Electrique (1971)

Gongのサウンドは、社会的混沌と霊的ユートピア思想の化学反応であった。


第2章 誕生と逸話――楽園を作るアナーキー・コミューン

1967年、デヴィッド・アレン(元Soft Machine)は英国再入国を拒否され、フランスへ亡命。
パリでギリ・スミスと出会い、即興的セッションを重ねる中で「Gong」が形成されていく。

洞窟でのセッション、テディベアを使った抗議パフォーマンスなど、Gongの誕生は数々の伝説に彩られている。
その活動拠点は単なるバンドではなく、音と思想の“アナーキー・コミューン”であった。

逸話・事件
1967 パリ五月革命の高揚期、アレン渡仏・亡命
1968 「テディベア事件」――警官にぬいぐるみを投げる
1969 Magick Brother 制作・初ライブ

登場キャラ: Zero the Hero(旅人)、Octave Doctor(音の科学者)

「Gongは航海する自由な船だった」――メンバー証言

この“航海”は単なる音楽活動ではなく、生の実験であった。


第3章 音楽的DNA――グリッサンド・ギターと詠唱「スペース・ウィスパー」

Gongの音響的中核は二つの要素で形成される。

  • デヴィッド・アレンによるグリッサンド・ギター
    弦をスライドで滑らせ、音が流体のように変化していく。
  • ギリ・スミスによるスペース・ウィスパー
    低い声で空間を漂うように呟き、サウンドスケープを包み込む。

さらに、ディディエ・マルグリーヴのサックスやピエール・モエルランのパーカッションが加わり、ジャズ、ロック、詩的朗読が渾然となる。

🎧 試聴推奨: Flying Teapot, Angel’s Egg, You

Gongの音楽は「ロック+ジャズ」ではなく、“サウンド詩”の形で世界を生成していた。


第4章 ラジオ・ノーム三部作――神話とアルバム群

1973〜74年にかけてリリースされた三部作――
『Flying Teapot』『Angel’s Egg』『You』。

これらは単なるアルバムではなく、「惑星Gong」の神話的叙事詩である。ラジオ放送という形式をとりながら、Zero the HeroやPot Head Pixiesらが登場し、宇宙と意識の旅が描かれる。

キャラ 特徴
Zero the Hero 地球とGong惑星を行き来する旅人
Pot Head Pixies 幸福と混沌の精霊
Octave Doctor 音と秩序を操る科学者

“I am your radio gnome, direct from the planet Gong…”

Gongは音楽の中で“物語るサウンド”という概念を確立した。


第5章 共同体としてのGong――生活・創作・流動的メンバー

南フランスのロッジを拠点とした共同生活。
そこでは録音、即興、哲学的対話、菜食主義、子育て、詩作――すべてが連続していた。

メンバーの出入りは激しく、音の構造と同じく流動的であった。
にもかかわらず、Gongの「魂」は消えなかった。
それは「固定メンバー」ではなく、共有されたビジョンとして存在したからだ。

Gongは「音楽する生活」「生きるように奏でる」ことの理想形だった。


第6章 社会とGong——カウンターカルチャーとの接点

Gongは音楽以上のものを志向していた。
欧州のヒッピー運動、ドロップアウト文化、コミューン思想、反核デモ、環境運動――。
それらと密接にリンクし、彼らの音は“もう一つの社会”の音楽として響いた。

「音楽は武器ではなく、精神の自由を広げる装置だった」

社会と芸術を隔てない、カウンターカルチャー的実践の象徴がGongだった。


第7章 変容と継承——モエルラン=ゴングへ、そして再生

1976年以降、デヴィッド・アレンが離脱。
代わってピエール・モエルランが中心となり、ジャズ・フュージョン志向のPierre Moerlan’s Gongが誕生する。

パーカッションとマリンバが前面に出た新機軸は、70年代後期ヨーロピアン・プログレの重要な潮流を形成した。

その後も「Gong Maison」「Acid Mothers Gong」など派生体が生まれ、
2015年のアレン死去後もGongは“再生する集合意識”として生き続けている。

🎼 代表作:Expresso II, Downwind, Rejoice! I’m Dead!


第8章 Gong神話の世界——キャラクターと図像・世界観

Gongは音楽と神話とアートを統合した総合芸術である。
ラジオ・ノーム三部作を中心に、登場人物・惑星・言語・放送局などが複雑に絡み合う。

以下はその象徴的構造を示す図:

graph TD A["Zero the Hero"] --> B["Planet Gong"] B --> C["Pot Head Pixies"] B --> D["Octave Doctor"] C --> E["Flying Teapot"] D --> F["Radio Gnome"] E --> G["Listeners on Earth"] G --> A

Gongの宇宙は共同創造される神話であり、聴き手もまたその一部となる。


第9章 エピソード&逸話集

  • 1968年:テディベアを掲げて警官と対峙

  • 洞窟セッションでの「音の誕生」

  • 1970年:BYGフェスでフランク・ザッパ司会のもと伝説的ライブ

  • メンバー間通信に“Gnome語”を使用

  • ファンが作る“Zeroの聖杯”儀式(英国フェスにて)

Gongは現実と神話を往来し、逸話そのものが芸術の一部であった。


第10章 年表と参考図

主な出来事
1967 パリで結成。アレン亡命
1969 Magick Brother 制作・初ライブ
1971 Camembert Electrique 発表
1973–74 Radio Gnome Trilogy 完成
1976 Pierre Moerlan’s Gong 期開始
1990–2015 アレン復帰、再編ライブ
2016– Rejoice! I’m Dead! 発表・継続活動中
timeline title Gong Chronology 1967 : Formation in Paris 1969 : "Magick Brother" 1971 : "Camembert Electrique" 1973 : "Flying Teapot" 1974 : "You" 1976 : Moerlan Era 1990 : Reunion 2015 : Allen's Death 2016 : Rejoice! I'm Dead!

主要ディスコグラフィー

タイトル ジャンル/備考 リンク
1969 Magick Brother 初期=サイケ・ジャズ/ロック融合 Amazon
1973 Flying Teapot “ラジオ・ノーム三部作”第1作 Amazon
1973 Angel’s Egg 三部作第2作 Amazon
1974 You 三部作第3作 Amazon
2009 2032 復活期・神話再考盤 Amazon
2016 Rejoice! I’m Dead! 創設者死去後の新章 Amazon
2019 The Universe Also Collapses 最新期スタジオ盤のひとつ Amazon
2022 Pulsing Signals ライブ盤(2019録音) Amazon

Gongとは何だったのか。

それは「音楽集団」というより、世界のもう一つの在り方だった。 そして今も、私たちのどこかの周波数で、 彼らの“ラジオ・ノーム”は静かに放送を続けている。


Monumental Movement Records

Monumental Movement Records

中古レコード・CD・カセットテープ・書籍などを取り扱っています。