1. 導入:科学者としての音楽家
文:mmr|テーマ:デヴィッド・アレンとギリ・スミスが築いた“宇宙的共同体”Gong。その神話とサウンド、そして60年代から現代への継承について
“We were a flying teapot sailing through the revolution.”
― Daevid Allen
目次
- 第1章 1960年代末フランス――高揚と混沌の革命期
- 第2章 誕生と逸話――楽園を作るアナーキー・コミューン
- 第3章 音楽的DNA――グリッサンド・ギターと詠唱「スペース・ウィスパー」
- 第4章 ラジオ・ノーム三部作――神話とアルバム群
- 第5章 共同体としてのGong――生活・創作・流動的メンバー
- 第6章 社会とGong——カウンターカルチャーとの接点
- 第7章 変容と継承——モエルラン=ゴングへ、そして再生
- 第8章 Gong神話の世界——キャラクターと図像・世界観
- 第9章 エピソード&逸話集
- 第10章 年表と参考図
第1章 1960年代末フランス――高揚と混沌の革命期
1960年代末、パリは革命の実験場であった。
大学紛争、ストリート・アクション、アートの解放――「五月革命」の熱気が若者たちを包み込み、音楽と詩と政治が混然一体となる。
Gongの誕生はまさにその只中であった。反体制・アナーキー・精神世界・コミューン文化。これらが混ざり合い、Gongは“音による共同幻想”を体現していく。
🎵 推奨音源: Magick Brother (1969), Camembert Electrique (1971)
Gongのサウンドは、社会的混沌と霊的ユートピア思想の化学反応であった。
第2章 誕生と逸話――楽園を作るアナーキー・コミューン
1967年、デヴィッド・アレン(元Soft Machine)は英国再入国を拒否され、フランスへ亡命。
パリでギリ・スミスと出会い、即興的セッションを重ねる中で「Gong」が形成されていく。
洞窟でのセッション、テディベアを使った抗議パフォーマンスなど、Gongの誕生は数々の伝説に彩られている。
その活動拠点は単なるバンドではなく、音と思想の“アナーキー・コミューン”であった。
| 年 | 逸話・事件 |
|---|---|
| 1967 | パリ五月革命の高揚期、アレン渡仏・亡命 |
| 1968 | 「テディベア事件」――警官にぬいぐるみを投げる |
| 1969 | Magick Brother 制作・初ライブ |
登場キャラ: Zero the Hero(旅人)、Octave Doctor(音の科学者)
「Gongは航海する自由な船だった」――メンバー証言
この“航海”は単なる音楽活動ではなく、生の実験であった。
第3章 音楽的DNA――グリッサンド・ギターと詠唱「スペース・ウィスパー」
Gongの音響的中核は二つの要素で形成される。
- デヴィッド・アレンによるグリッサンド・ギター:
弦をスライドで滑らせ、音が流体のように変化していく。 - ギリ・スミスによるスペース・ウィスパー:
低い声で空間を漂うように呟き、サウンドスケープを包み込む。
さらに、ディディエ・マルグリーヴのサックスやピエール・モエルランのパーカッションが加わり、ジャズ、ロック、詩的朗読が渾然となる。
🎧 試聴推奨: Flying Teapot, Angel’s Egg, You
Gongの音楽は「ロック+ジャズ」ではなく、“サウンド詩”の形で世界を生成していた。
第4章 ラジオ・ノーム三部作――神話とアルバム群
1973〜74年にかけてリリースされた三部作――
『Flying Teapot』『Angel’s Egg』『You』。
これらは単なるアルバムではなく、「惑星Gong」の神話的叙事詩である。ラジオ放送という形式をとりながら、Zero the HeroやPot Head Pixiesらが登場し、宇宙と意識の旅が描かれる。
| キャラ | 特徴 |
|---|---|
| Zero the Hero | 地球とGong惑星を行き来する旅人 |
| Pot Head Pixies | 幸福と混沌の精霊 |
| Octave Doctor | 音と秩序を操る科学者 |
“I am your radio gnome, direct from the planet Gong…”
Gongは音楽の中で“物語るサウンド”という概念を確立した。
第5章 共同体としてのGong――生活・創作・流動的メンバー
南フランスのロッジを拠点とした共同生活。
そこでは録音、即興、哲学的対話、菜食主義、子育て、詩作――すべてが連続していた。
メンバーの出入りは激しく、音の構造と同じく流動的であった。
にもかかわらず、Gongの「魂」は消えなかった。
それは「固定メンバー」ではなく、共有されたビジョンとして存在したからだ。
Gongは「音楽する生活」「生きるように奏でる」ことの理想形だった。
第6章 社会とGong——カウンターカルチャーとの接点
Gongは音楽以上のものを志向していた。
欧州のヒッピー運動、ドロップアウト文化、コミューン思想、反核デモ、環境運動――。
それらと密接にリンクし、彼らの音は“もう一つの社会”の音楽として響いた。
「音楽は武器ではなく、精神の自由を広げる装置だった」
社会と芸術を隔てない、カウンターカルチャー的実践の象徴がGongだった。
第7章 変容と継承——モエルラン=ゴングへ、そして再生
1976年以降、デヴィッド・アレンが離脱。
代わってピエール・モエルランが中心となり、ジャズ・フュージョン志向のPierre Moerlan’s Gongが誕生する。
パーカッションとマリンバが前面に出た新機軸は、70年代後期ヨーロピアン・プログレの重要な潮流を形成した。
その後も「Gong Maison」「Acid Mothers Gong」など派生体が生まれ、
2015年のアレン死去後もGongは“再生する集合意識”として生き続けている。
🎼 代表作:Expresso II, Downwind, Rejoice! I’m Dead!
第8章 Gong神話の世界——キャラクターと図像・世界観
Gongは音楽と神話とアートを統合した総合芸術である。
ラジオ・ノーム三部作を中心に、登場人物・惑星・言語・放送局などが複雑に絡み合う。
以下はその象徴的構造を示す図:
Gongの宇宙は共同創造される神話であり、聴き手もまたその一部となる。
第9章 エピソード&逸話集
-
1968年:テディベアを掲げて警官と対峙
-
洞窟セッションでの「音の誕生」
-
1970年:BYGフェスでフランク・ザッパ司会のもと伝説的ライブ
-
メンバー間通信に“Gnome語”を使用
-
ファンが作る“Zeroの聖杯”儀式(英国フェスにて)
Gongは現実と神話を往来し、逸話そのものが芸術の一部であった。
第10章 年表と参考図
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1967 | パリで結成。アレン亡命 |
| 1969 | Magick Brother 制作・初ライブ |
| 1971 | Camembert Electrique 発表 |
| 1973–74 | Radio Gnome Trilogy 完成 |
| 1976 | Pierre Moerlan’s Gong 期開始 |
| 1990–2015 | アレン復帰、再編ライブ |
| 2016– | Rejoice! I’m Dead! 発表・継続活動中 |
主要ディスコグラフィー
| 年 | タイトル | ジャンル/備考 | リンク |
|---|---|---|---|
| 1969 | Magick Brother | 初期=サイケ・ジャズ/ロック融合 | Amazon |
| 1973 | Flying Teapot | “ラジオ・ノーム三部作”第1作 | Amazon |
| 1973 | Angel’s Egg | 三部作第2作 | Amazon |
| 1974 | You | 三部作第3作 | Amazon |
| 2009 | 2032 | 復活期・神話再考盤 | Amazon |
| 2016 | Rejoice! I’m Dead! | 創設者死去後の新章 | Amazon |
| 2019 | The Universe Also Collapses | 最新期スタジオ盤のひとつ | Amazon |
| 2022 | Pulsing Signals | ライブ盤(2019録音) | Amazon |
Gongとは何だったのか。
それは「音楽集団」というより、世界のもう一つの在り方だった。 そして今も、私たちのどこかの周波数で、 彼らの“ラジオ・ノーム”は静かに放送を続けている。