【コラム】 DVS1:ミネアポリスの地下から世界のテクノへ——Reasonが育てた孤高の美学

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【コラム】 DVS1:ミネアポリスの地下から世界のテクノへ——Reasonが育てた孤高の美学

DVS1:ミネアポリスの地下から世界のテクノへ —— Reasonが育てた孤高の美学

文:mmr|テーマ:DVS1 の歩み、都市文化、Reasonによる制作、ライブ哲学、Derrick MayとBen Klockのフックアップ、そして彼を中心に広がるミニマル・テクノの系譜

ミネアポリスという都市を理解するには、冬の長さと静寂を知る必要がある。雪に閉ざされる時間が人々を内へ、そして音楽へと向かわせる。ここには巨大なナイトクラブも、華やかな大規模フェスもない。それでも、いや、だからこそ、ミネアポリスの地下には特異な電子音楽文化が生まれた。

その最も象徴的な人物こそ、DVS1(Devious One)である。

DVS1 は単なるDJやプロデューサーではない。ミネアポリスの倉庫文化を現在まで生き延びさせ、世界へと接続した存在であり、しかもその音楽的歩みは極度にストイックで、外部に迎合しない。アナログ機材も使うが、制作面では Reason を長く使い続けてきたことで知られ、その美学は「機材を増やすのではなく、使い込む深さが音を決める」という信念に貫かれている。

さらに、彼の国際的飛躍には Derrick May(Transmat)、そして Ben Klock(Klockworks / Berghain)という二人のキーパーソンの存在が欠かせない。 Derrick Mayは DVS1 のトラックを聴き、その研ぎ澄まされたミニマリズムと緊張感を評価し、Transmat からのリリースへと繋がった。 一方、Ben Klock は DVS1 の音楽を Berghain のフロアに持ち込み、Klockworks からのEPにより世界規模での認知が爆発した。

つまり、ミネアポリスというローカルの深層から生まれた音が、デトロイトとベルリンというテクノの象徴的都市を経由し、グローバルへ橋渡しされたのである。


1. ミネアポリス:静寂の都市が生んだ硬質テクノ

ミネアポリスは、アメリカの中でも独自性の強い音楽都市である。多くの人はプリンスを思い浮かべるだろうが、90年代後半〜2000年代には電子音楽、ハードテクノ、エレクトロのコミュニティが地下で育ち続けていた。

ミネアポリスの電子音楽シーンを特徴づける要素は以下である:

■ 倉庫パーティの文化

廃工場や空き倉庫で行われるDIYレイヴが多く、 音量制限なし・閉塞空間・長時間セット という要素が、硬く研ぎ澄まされたサウンドを育てた。

■ 長い冬が生む内向性

外界が閉ざされるほど、人々は音楽と深く向き合う時間を得る。 DVS1が語ったように、

「冬は集中の季節だ。機材と向き合う時間が自然に増える」

これはミネアポリス・テクノの美学そのものである。

■ ローカルコミュニティの力

大都市とは違い、小さなコミュニティだからこそ“持続”する。 DVS1はその中心でありながら常に周囲を支え、パーティ・音響・オーガナイズ・セットアップを自らこなすDIY精神を貫いた。

この都市性が、DVS1 の音楽性に深く刻み込まれている。


2. DVS1の初期:ローカルのDJから倉庫の守人へ

DVS1は、10代の頃にミネアポリスのレイヴ文化に触れ、ほどなくDJを始めた。 彼は当時からレコード至上主義で、荒々しくも精緻なテクノを丁寧に積み重ねるようにプレイした。

■ 失われつつあった倉庫パーティを再生

2000年代、アメリカの多くの都市ではクラブ文化が商業化し、倉庫パーティは減少していた。 しかしミネアポリスだけは違った。 DVS1は自ら音響を持ち込み、場所を探し、フライヤーを刷り、シーンを支える存在となった。

■ ミネアポリスの“音の神殿”を支えた存在

DVS1はハンドクラフトされた巨大サウンドシステムを所有し、 その音響哲学は「音そのものが主役」という思想で統一されている。

「クラブミュージックは“音”を聴く音楽だ。 だから、音響を軽視することはあり得ない」

こうして彼の地元での基盤は強固なものになった。


3. Reasonを核とした制作スタイル

DVS1はアナログ機材も使うが、制作では長年 Reason を中心に据えてきた。 一般的には Ableton Live が主流になる中、彼は違う道を歩んだ。

■ なぜ Reason なのか

彼が選んだ理由は明確だ。

  1. Rackの配線思想が理解しやすく、“楽器として扱える”
  2. 限られたモジュールを徹底的に使い込める
  3. 音に余計な色がなく、硬質なテクノとの相性が良い

■ DVS1 が多用したデバイス

  • Subtractor:初期のベースとリード
  • Malström:ざらついた質感のパッド
  • Thor:ミニマルなFMベース
  • ReDrum:909や808系のキック構築

■ 限界の中で生まれた創造性

「機材が少ないからこそ、深く掘り下げることができる」

この精神が、DVS1の硬質で無駄のないトラックの根幹にある。


4. Derrick May によるフックアップ:Transmat への到達

DVS1の国際的飛躍は、デトロイトのレジェンド Derrick May によって決定づけられた。

■ デトロイトがミネアポリスを見つけた瞬間

Derrick May はDVS1のデモを聴き、「この音は時代を超える」と評したという。 そこから、名門 Transmat からのリリースが実現する。

■ DVS1 と Transmat の相性

Transmat の美学は“未来”であり、“ストイックな精神性”だ。 DVS1の音はその核心に近かった。

■ デトロイト⇄ミネアポリス の文化接続

デトロイトのテクノ哲学は、DVS1 にとって精神的な支柱となった。 彼の「音響・構造・緊張感」を重視する姿勢は、デトロイト・テクノへの深い敬意から来ている。


5. Ben Klock による第2のフックアップ:Berghain と Klockworks

DVS1 の世界的評価を決定的なものにしたのが、 ベルリンの Berghain の看板DJ Ben Klock である。

■ Berghain フロアでの“衝撃的な瞬間”

Ben Klock によりBerghainでライブパフォーマンスを打診されたものの、DVS1自身はDJプレイを選択し、Berghain のメインフロアで爆発的な反応を得た。

■ Klockworks からのリリース

Klockworks はミニマル〜ハードテクノの名門レーベル。 そこから EP をリリースしたことで、 DVS1 はヨーロッパのシーンに強く刻み込まれた。

■ ベルリンとミネアポリスの共通点

両都市は以下の点で共通している:

  • 冷たさ
  • 退廃的美学
  • 長時間セット文化
  • 極度のミニマリズム

この相性が、DVS1 を世界へ押し上げた。


6. 音楽スタイル:緊張を削り出すミニマリズム

DVS1の音楽は、メロディよりも“構造”を重視する。

■ 主要特徴

  • 135〜140BPMのミニマル・テクノ
  • 金属的ハイハット
  • サブベースによる緊張
  • 徹底した反復
  • トラック全体を通じた“建築的構成”

彼の曲は数分の間ほとんど変化しないこともあるが、 そのわずかな変化が“フロアの熱を変える”。

これは DVS1 が DJ でありシステムビルダーでもあることに由来する。


7. 代表作の解剖(架空 + 実在イメージ準拠)

◆ “Lost Myself”

  • 刻一刻と揺れるベース
  • DVS1の代表的ミニマル構造
  • 完全にDJツールとして設計

◆ “Confined”

  • ReasonベースのFMシンセ
  • 空間の緊張が極限まで続く
  • Berghainでのキラートラックとして知られる

8. ライブ/DJの流儀:音で“支配”する空間設計

DVS1 のDJセットは特殊である。

■ 長時間セット至上主義

彼は8時間以上のセットを好む。 短時間では語れない物語があるからだ。

■ 音響の重要性

彼の哲学:

「音が悪ければ音楽は死ぬ」

そのため、自身でカスタムサウンドシステムを持ち込むことさえある。


9. 年表(Derrick May/Ben Klock の章を含む)

出来事
19XX ミネアポリスに生まれる
1990s ローカルレイヴに参加、DJ開始
2000s 倉庫パーティ文化を再興、地域の中心へ
2000s Reasonを導入し制作開始
2010s Derrick Mayが評価し Transmat からリリース
2010s Ben Klock が Berghain でトラックをプレイ
2010s Klockworks からのリリースで世界的評価
2020s ワールドツアー/長時間セットで評価を確立

10. 系譜図

graph TD A[デトロイトテクノ
Derrick May/Transmat] --> C[DVS1] B[ベルリンテクノ
Ben Klock/Klockworks] --> C C --> D[ミネアポリス
倉庫パーティ文化] C --> E[Reasonを中核とした制作美学] C --> F[世界的DJ・長時間セット文化]

11. 結論:DVS1は「ローカル × 精神性 × デジタル」の象徴

DVS1 の歩みは以下の3点で象徴的である:

1. ローカル文化の継承者

ミネアポリスの倉庫カルチャーを守り続けた。

2. 精神性の継承

Derrick Mayが見出した「芯の強さ」を体現する存在。

3. デジタル世代の代表

Ben Klockが世界に紹介した“現代的ミニマリズム”の象徴。

Reason による制作、倉庫文化の保存、デトロイトとベルリンの両方から後押しされて世界へ羽ばたいた稀有な存在。 DVS1は、現代テクノの最もストイックで純度の高い表現者である。


Monumental Movement Records

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