
Yahowha 13とは何か ─ Father YodとSource Familyの音楽遺産
文:mmr|テーマ:カルト・バンド” を超えた音楽・宗教・コミューン実践を融合させた異形のプロジェクトについて
Yahowha13(別表記:Ya Ho Wha 13, Yahowah 13, YaHoWa13 など)は、1970年代前後に活動したアメリカのスピリチュアル・コミューン “Source Family(ソース・ファミリー)” に結びついた、即興性と儀式性を強く帯びたサイケデリック・ロック/実験音楽プロジェクトです。中心人物は Father Yod(本名:James Edward Baker)。彼自身が宗教運動のリーダーでありながら音楽にも深く関与し、その音楽活動を通じて教えを拡張しようとしました。
Father Yod/James Edward Baker — 軌跡と伝説
生い立ちと転身
1922年7月4日、オハイオ州シンシナティに生まれる。後に海兵隊員として従軍した経験を語る(ただし公式記録には銀星章が確認できないとの指摘もある)
西海岸に移り、ナチュラル・ライフ運動や菜食主義、ヒッピー文化、神秘思想に傾倒。ロサンゼルスのサンセット・ストリップに健康食レストラン “The Source” を開業し、著名人も来客したという。
やがて Yogi Bhajan のカンダリーニ・ヨガ思想などに影響を受け、自身の宗教運動としてソース・ファミリーを組織。彼を中心とする集団で、共同生活、精神実践、音楽、食・健康法、儀式などを統合したライフスタイルが展開された。
結婚・妻たち・子ども:法的な妻は Robin Popper(後に Ahom)だが、信者たちによれば複数の “妻” を持ち(14名と伝えられる)、信徒たちとの共同生活を行った。
逸話・伝説
“軍人・元海兵隊員・戦争英雄”的逸話、そして銀行強盗や殺人との関与告発が伝えられる “Cult Leader / ex-Marine / bank robber / cult leader” 的な語りもあり、ジャーナリズムやノンフィクション記事がその二重性を追及してきた。
コミューン運営中、「私物放棄」「親族断絶」「若年信者に対する結婚許可」など、カルト運営にありがちな論争もあったという記録が残る。
1975年8月25日、ハワイで初めてのハンググライダー飛行に挑んだ際の事故で死亡(墜落し、約9時間後に亡くなったとされる)。この事故が事実上 Yahowha13 の “終焉” を象徴する出来事になった。
その後、信徒メンバーは散逸したが、音源アーカイブや伝承を通じて再評価が進んだ。特に 1998年に日本の Captain Trip レーベルよりリリースされた 13枚組ボックス・セット God and Hair (Yahowha コレクション)は、Yahowha13/Source Family 音源を包括的に網羅し、伝説再興の契機となった。
Yahowha13 の音楽的展開と構成
構成メンバーと命名変遷
コア・ラインナップ:Djin Aquarian(ギター)、Octavius Aquarian(ドラム)、Sunflower Aquarian(ベース)を中心に、Lovely, Hom, Rhythm, Pythias, Aquariana ら“アクアリアン姓”信徒ミュージシャンが参加。
初期は “Father Yod & The Spirit of ’76” 名義でリリース。その後 “Ya Ho Wa 13 / Yahowha13 / YaHoWha13 / Yahowa 13” など表記が揺らぎつつ使われた。
また、バンド名称を変えて “Savage Sons of Ya Ho Wa”、“Fire, Water, Air”、“Yodship” などでも活動した時期がある。
メンバーと証言による解釈
- Djin Aquarian (Sunflower): 「我々の演奏は楽曲ではなく祈りだった」
- Octavius: 「Father Yodの目線や息遣いで即興演奏の方向が決まった」
- Source Family の回想: レコーディングは日常の儀式であり、音楽は神との交感そのものだった。
このように Yahowha 13 の歌詞や演奏は、「意味」ではなく「波動」や「マントラ性」に重きを置いたものでした。
音楽的特徴・即興性
完全即興的な演奏:リハーサルなし、オーバーダブなし、一発録り、切り貼りなしというポリシーで録音された音源が多い。
トライバル・ドラム、ベル、カン、チャント、ホワイトノイズ、雑音的ギター などを多用。楽曲というよりは“儀式の音響”に近い構成。
時にメロディック/歌構造をもつ曲もあるが、全体としては空間性・反復性・儀式性を重視した音響実験性が前面に出る。
歌詞やヴォーカル(父 Yod のチャント、セリフ風朗唱、信徒のコーラス)は、教義・詠唱・瞑想文との密接な結びつきを持つものが多い。
歴史的フェーズ(年代別)
Yahowha13 の音楽活動は、大きく以下のように段階化できます:
- 1973 年–1974 年:Spirit of ’76 名義期
Kohoutek(1973)、Contraction(1974)、Expansion(1974)、All or Nothing at All(1974)など。最初期の実験音楽期。
この時期、音響実験とチャント・セッションの融合を模索。Father Yod 自身がカン、チャント、パーカッションで関与する録音も多い。
- 1974 年中盤〜1975 年:YaHoWa13 名義期/技巧深化期
Ya Ho Wa 13(1974)、Savage Sons of Ya Ho Wa(1974)、Penetration: An Aquarian Symphony(1974)、I’m Gonna Take You Home(1974)、To the Principles for the Children(1975)、The Operetta(1975 未発表 → 後年発表)など。
この時期には、より “構築性” や “曲性” を取り入れようとする試みも見られ、歪んだギターリフ、反復フレーズ、断片的な詩・歌唱が混在する作風。
特に Penetration: An Aquarian Symphony はバンド史上もっとも人気・再評価が高い作品とされ、多くの再発がなされている。
- 1975 年以降:Father Yod 死亡後/断続的活動期
1975年以降、Father Yod 他界によりバンドは解体。ただし信徒ミュージシャンは継続的に録音・演奏を行った。
1977年には Golden Sunrise(Fire Water Air 名義)、Yodship Suite(プライベート・プレス)などが発表。Sky Saxon(The Seeds 出身)との共演や、ヴォーカル参加もある。
2000年代以降、再発・アーカイブ復刻、断片的な新作録音、メンバー再結集(Djin, Sunflower, Octavius らによる Sonic Portation など)も。
年代別おすすめアルバム一覧
以下は、Yahowha13/Father Yod 関連の主要作品を 年代別におすすめ作品 として整理したものです。
年代 | アルバム名 | 備考・おすすめポイント | リンク |
---|---|---|---|
1973 | Kohoutek | Spirit of ’76 名義の最初期録音、実験性と荒さを特徴とする | Amazon |
1974 | Contraction | 音響実験深化、初期 YaHoWa 期の過渡期 | Amazon |
1974 | Expansion | コンセプト的な即興的断片を多く含む | - |
1974 | Ya Ho Wa 13 | バンド名義での初期公式作、チャントとギターの融合が鮮明 | Discogs |
1974 | Penetration: An Aquarian Symphony | 最も広く評価される代表作、構造・演奏ともに完成度高め | Amazon |
1974 | I’m Gonna Take You Home | ダーク・ロマンティシズムを帯びた曲構造もある意欲作 | Amazon |
1975 | To the Principles for the Children | Yod の最後期参加作、教義的要素の強い詩性が目立つ | Amazon |
1975(後年発表) | The Operetta | 1975年録音の未発表音源を後年リリースした作品 | Amazon |
1977 | Golden Sunrise | Fire, Water, Air 名義、Sky Saxon 参加作品 | - |
1977 | Yodship Suite | プライベート・プレス、伝説的なプレス数極小 | Amazon |
2008 | Sonic Portation | Djin・Sunflower・Octavius による再結成作品 | Amazon |
2009 | Magnificence in the Memory | アーカイブ未発表曲集、再評価を促す編集盤 | Amazon |
相関図
以下は、Father Yod/Source Family/Yahowha13 および派生プロジェクトの関係を簡易に示した Mermaid 関係図 です:
現在の状況・再評価と遺産
再評価・リイシュー
1990年代後半から、Yahowha13 および Source Family 音源はコアなコレクターやサイケデリック音楽愛好家の間で再評価が進んだ。特に 1998 年の God and Hair(13枚組コレクション)は重要なマイルストーンとなった。
2000年代以降、Swordfish Records、Drag City、Captain Trip Records などからオリジナル LP のリマスター再発や未発表音源集が相次いでリリースされている。
2012年にはドキュメンタリー映画 The Source Family(監督:Jodi Wille & Maria Demopoulos)が公開され、これを契機として一般層にも注目が再燃。
2009 年には Magnificence in the Memory といった未発表曲編集盤がリリースされ、ファン・研究者の関心を再び喚起した。
再結成・活動
2007 年、オリジナル構成メンバー(Sunflower, Octavius, Djin) が 33 年ぶりにライブ演奏を行ったとされる。
2008 年には Sonic Portation を発表し、断片的な再活動を行った。
2010 年代以降も、アーカイブ音源の発掘・録音発表、ライブ出演(SXSW などフェスティバル出演)という記録が残る。
遺産と意義
Yahowha13 は、「音楽=教義・儀式の延長線上にあるチャネリング・実践」として、ロックやサイケデリック音楽の枠を超えた「宗教即興音響作品」という位置づけで注目される。
その即興性・空間性・超越性志向は、後の実験音楽、インプロヴィゼーション、サウンドアート勢力に少なからぬ影響を残したと論じられる。
コミューン文化、カルト運動、アウトサイダー・ミュージック研究といった分野でも、Yahowha13/Source Family の存在は典型例・研究対象となっている。
一方で、信者や音楽家としての “功罪” をめぐる倫理・歴史的批判、記録の断片性、真偽不明の逸話・伝説性も含めた論争的包摂を含む。
アルバム詳解(選出・注目作ごとに)
※LP群は1973〜1975年に集中しており、初期は Father Yod & The Spirit of ‘76 名義、のち Ya Ho Wa / Ya Ho Wha 13 名義で録音・販売されました。ディスク情報は小規模プレス/アーカイブのため版ごとに差が大きいです。
Kohoutek(1973/Father Yod & The Spirit of ‘76)
ポイント:最初期の即興実験集。粗さとエネルギーが同居する“儀式の予兆”が聴ける。Father Yod のチャントが強く出る初期記録としてコレクター人気がある。
Contraction(1974) / Expansion(1974)
ポイント:一連の“宇宙的”シリーズ。音響的な実験(パーカッション、ゴング、長尺のコール&レスポンス)が目立つ。初期の“声と音の実験”に興味があるなら必携。
ポイント:セルフ・レコーディングの中核。Garage録音ながら、バンドの即興的まとまりが出てきた段階。Djin(ギター)/Sunflower(ベース)/Octavius(ドラム)らのプレイが要。
Penetration: An Aquarian Symphony(1974)
楽曲と聴きどころ:「Yod He Vau He」「Ho」「Journey Thru An Elemental Kingdom」「Ya Ho Wha」など長尺トラックが続く。“儀式性”と“サイケデリック・ジャム”の結晶であり、再発も多く最も入手しやすい代表盤。サウンドスケープ的なダイナミクスが大きく、初めて聴く人にはここから入ることを推奨。
ポイント:やや曲構造が出る曲もあり、荒削りだがメロディ的断片も感じられる。歌・チャントが強く出る作品。
Savage Sons of Ya Ho Wa / To the Principles for the Children / The Operetta(1974–1975)
ポイント:実験と“祈り(教義)性”が混在。The Operetta は1975年録音だが長らく未発表→後年リリースという経緯。未発表/断片的な素材が多いのもこのプロジェクトの特徴。
再編集/コンピ:Magnificence in the Memory(2009, Drag City)
ポイント:未発表テープから編纂された編集盤。音源保存・リマスターの側面が強く、入門用にまとまりが良い。Pitchfork 等レビューでも注目された。
歌詞(詩的表現)分析 — 典型的テーマと読み方
実情:多くのトラックは“詠唱/チャント”・断片的なセリフ・宗教的宣言(Father Yodの“声”)が中心で、厳密な歌詞の書き起こしが公式に出回っているケースは少ない。フル・歌詞テキストが流通している楽曲は稀で、音源そのものが「儀式の場を録音したドキュメント」という位置づけです(音源・トラック名は Spotify / Shazam 等に存在)。
主要モチーフ:
「Ya Ho Wha / Ya Ho Wa / YHWH(子音的類似)」の反復 — 神名・聖音的役割。
元型的な“旅・浄化・元素(fire/water/air/earth)”の言及 — アルバム/曲タイトルにも現れる象徴。
教義的・儀式的文句(“man the messiah” 等の編集付きトラック名が示す単語) — 指導者の宣言としての言葉が即興で重ねられる。
分析のしかた:歌詞を単純に“歌詞=意味の伝達”として読むよりも、「(1)音そのものが儀式である/(2)言葉は暗示的・詩的なトリガーで、その場の共同体経験を生成する」――という読み方が最も回収力があります。つまり “音/反復” による参加型の宗教的誘導 がアルバムの核心です。
メンバー別ミニ伝記
※Source Family の信徒は姓を “Aquarian” に統一しています。以下は活動と主要な関与を中心に短くまとめます。
- Father Yod(James Edward Baker)
宗教指導者でバンドの“顔”。健康食レストラン The Source を運営、コミューンを率い、録音ではヴォーカル/チャント/ケトルドラムで参加。1975年ハワイでのハンググライディング事故で死亡するとされる(1975-08-25)。
- Djin Aquarian(ギター)
バンドの“即興ギター”を担った主要メンバー。後年もソロ/再結集で活動。インタビューやアーカイブで当時の中心人物として語られることが多い。
- Sunflower(Patrick Sunflower Aquarian、ベース)
バンドの低音を支え、コミューン内で父 Yod の右腕的存在(配分的役割)。近年のインタビューやラジオで活動史が整理されています。
- Octavius Aquarian(ドラム)
トライバルなリズム・パターンと長尺のグルーヴを担当。Djin・Sunflower とともに後年の再結集にも参加。
- Isis Aquarian / Electricity Aquarian
Source Family のアーカイヴ・編集/記録者。著書 The Source: The Untold Story…(Isis & Electricity)により一次資料・写真・未発表音源を保存・公開、2012年のドキュメンタリー制作にも協力した。彼女らの資料が現代の再評価を支えた。
- Sky Saxon(The Seeds 出身)
一時期 Source Family に参加し、Ya Ho Wha の録音/再発プロジェクト(1998 の Japan box set など)に関わったことで知られる。
各国リイシュー(概観)
-
日本:1998年の豪華 13CD ボックス God And Hair (Yahowha Collection)(Captain Trip Records)――限定生産の大型コレクションで、以後コレクター市場での流通が中心。日本盤はコレクター心を刺激する豪華装丁で知られる。
-
イギリス / EU:Swordfish Records(UK)が Penetration 等の一部タイトルをリマスター/限定プレスで復刻。英国内の再発流通を支えた重要レーベル。
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アメリカ:Drag City(2009 の Magnificence in the Memory 等)がアーカイブ編集盤を出し、米での再評価と流通を担当。Drag City の編集は音源整理・現代リスナーへの“入口”として機能した。
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備考(流通):
多くの初版 LP は 500〜1000 枚の少数プレス。オリジナル盤は高価で希少。
再発は版元と時期によって音源の編集度合いが違う(未発表曲を含む編集盤、オリジナルのまま再プレス、リマスター版などが混在)。購入時は版(年/レーベル)を確認することを推奨。
聴きどころ & 推奨リスニング順(初心者→中級→研究者向け)
代表曲・代表盤(入門):Penetration: An Aquarian Symphony をまず一度通しで。
曲性とチャントを知る(中級):I’m Gonna Take You Home, Savage Sons of Ya Ho Wa を聴いて、歌的要素とセッション的要素の違いを掴む。
アーカイブ/未発表(研究):Drag City の Magnificence in the Memory、Captain Trip の God and Hair (13CD) で深掘り。アーカイブ的価値が高い。
参考になる一次資料
Source Family ドキュメンタリー(The Source Family, 2012) — 映像資料として必見。
歌詞と解釈
『Penetration: An Aquarian Symphony』(1974) の歌詞と解釈
特徴: 長尺の即興演奏の上で Father Yod が祈祷のように「愛」「宇宙」「真理」を繰り返し呼びかける。
テーマ: 性的エネルギーを「宇宙との一体化」へと昇華させる比喩。タイトル「Penetration」は肉体的意味だけでなく「意識の深層へ突き抜ける」ことを指す。
反復するモチーフ: 「God」「Love」「Children」「Cosmic Light」など。
『Ya Ho Wha 13』名義でのトラック
歌詞というより「呪文的な発声」が中心。単語が明確に歌われるより、シャウトやチャントとして響く。
「Ya Ho Wha」という音自体が、Source Family の神聖なマントラで、ヨドが日常的に使っていた「神の名前」の表現。
『Man the Messiah』
内容: 人類(Man)が「メシア的存在」として目覚めることを促す。
ヴォーカル表現: 説教口調で「Wake up」「The time is now」といった呼びかけが印象的。
解釈: キリスト教的「救済者」像を超えて、「誰もがメシアになれる」というニューエイジ的思想を体現。
Yahowha 13 各国リイシューと評価の違い
🇺🇸 アメリカ
初期状況: 1970年代当時は自主制作盤(極小ロット)しかなく、カルト的存在に留まっていた。
1990年代: サイケデリック再評価の文脈で、Drag City や Swordfish などのインディーレーベルが再発。
2000年代以降: The Source Family ドキュメンタリー映画(2012)公開により、ヒッピー文化史の一部として認知が拡大。
評価傾向: 「奇妙なカルト集団の音楽」という好奇の目線から、今では「アメリカン・アンダーグラウンド史の重要記録」と位置づけられる。
🇩🇪 ドイツ
クラウトロック文脈での再評価: Amon Düül II や Can のファン層が「アシッド・ジャム」として Yahowha 13 を発掘。
リイシューの充実: 1998年以降、Captain Trip(実は日本のレーベル)やドイツ系ディストリビューターを通じて多数復刻。
評価傾向: 「ヨーロッパのアヴァンギャルドや即興音楽に近い」とみなされ、音楽的純度が重視された。
→ 宗教色よりも「音響実験」として捉えられることが多い。
🇯🇵 日本
90年代サイケ再発ブーム: P.S.F. Records や Captain Trip Records が Yahowha 13 を積極的に紹介。
雑誌『ユリイカ』『ユーロロック・プレス』 などで「幻のカルト・サイケ」として特集され、日本のリスナーは熱心に収集。
評価傾向: 日本では「異端」「秘教サイケ」として愛好され、輸入盤ショップ(ディスクユニオン、メロン、マンハッタンレコード等)でコレクターアイテム化。
また、Acid Mothers Temple や High Rise など日本のアシッド系バンドにも影響を与えたとされる。
比較まとめ
国 | 主なリイシュー時期 | 特徴的評価 | 傾向 |
---|---|---|---|
🇺🇸 アメリカ | 1990年代〜Drag City等 | カルト的好奇から歴史的再評価へ | 「コミューン音楽の遺産」 |
🇩🇪 ドイツ | 1990年代後半〜 | クラウトロック文脈で発掘 | 「音響実験」「アシッド・ジャム」 |
🇯🇵 日本 | 1990年代初頭〜 | コレクター向けカルト再発 | 「秘教サイケ」「異端の音楽」 |
Yahowha 13 と Source Family ─ 証言に基づく解釈補足
即興演奏と「家族的共同体」の一体感
元メンバーの Sunflower (Djin Aquarian) はインタビューで「我々の演奏は楽曲ではなく、祈りであり、共同体のエネルギーをそのまま音にしたものだった」と語っています。
Yahowha 13 のセッションは、事前のリハーサルなしで行われ、メンバーが「ヨドのエネルギー」を受け取って即興的に音を紡ぎました。
このため、歌詞も「構築された詩」ではなく、神の名やスピリチュアルなフレーズの断片を繰り返すスタイルになったといえます。
Father Yod の役割
家族の証言によれば、ヨド(Jim Baker)は元々はレストラン経営者から転身し、Source Family の精神的指導者となった人物。
彼は音楽においても「演奏者」ではなく「エネルギーの導管」としての役割を自覚していたと言われます。
メンバーの Octavius は「彼は我々に演奏させるが、同時に我々を“聴いていた”。彼の目線一つ、息遣い一つでセッションの方向が決まった」と証言。
コミューン的生活と音楽
Source Family はハリウッドの邸宅「The Father House」で共同生活を送り、毎日の瞑想や菜食主義、ヨガ、集団活動を行っていました。
音楽制作は「日常の延長」であり、リビングルームや地下室がそのままスタジオになっていたそうです。
家族の一人は「レコーディングは神聖な儀式で、マイクやテープレコーダーがあれば、あとは宇宙のエネルギーが自然に流れ込んでくる」と回想。
歌詞の解釈とマントラ性
「Ya Ho Wha」という言葉は単なるバンド名ではなく、Source Family 内で日常的に唱えられていた「神の名」。
メンバーの証言によれば、これは「Yahweh(ヤハウェ)」の変形であり、音に宿る神聖さを直感的に感じ取れるよう工夫された発声だったといいます。
したがって Yahowha 13 の歌詞は、文学的な意味よりも 瞑想的・呪術的効果 を狙ったもので、「意味より波動」が重視されていました。
死とその後の解釈
1975年、ヨドはハンググライダー事故で亡くなりますが、家族は「彼は自ら肉体を脱ぎ捨てた」と語り、死を悲しみではなく「次の段階への移行」と捉えました。
その後、Yahowha 13 のメンバーは断片的に活動を続け、90年代以降はリイシューやドキュメンタリーによって再評価。
証言をまとめた書籍 The Source: The Untold Story of Father Yod, YaHoWha 13, and The Source Family では、当時の体験が「破壊的でもあり、解放的でもあった」と複雑に語られています。
補足解釈のまとめ
メンバーや家族の証言から見えてくるのは:
Yahowha 13 の音楽は「曲」ではなく「共同体の祈りの記録」。
歌詞は意味ではなく マントラ的な力 を帯びていた。
Father Yod は演奏家ではなく「精神的な指揮者」。
彼の死後も、音楽は「スピリチュアルな遺産」として生き続けている。
締めくくりに
Yahowha13/Father Yod は、単なる “カルト・バンド” を超え、音楽・宗教・コミューン実践を融合させた異形のプロジェクトとして、後の世代に強烈な印象を残しました。即興性、儀式性、狂気と神秘の狭間を往くサウンドは、現代においても聞き手を挑発します。
Yahowha 13 と Father Yod の音楽は、単なるサイケデリック・ロックの枠を超え、1970年代のヒッピー文化と共同体精神を体現した「音の儀式」でした。Father Yod の導きのもと、Source Family の信徒たちは即興演奏を通じて精神的エネルギーを音に変換し、歌詞やチャントは文学的意味よりもマントラ的な波動として機能しました。
アルバム『Penetration: An Aquarian Symphony』や『I’m Gonna Take You Home』に代表される音源は、宗教的儀式とサイケデリック即興の融合を記録したものであり、現代のリスナーにとっても未だに刺激的です。アメリカではカルト史の資料として、ドイツでは音響実験として、日本では秘教サイケとして再評価され、それぞれの文化圏で独自の解釈が生まれています。
今日ではストリーミング配信や再発盤を通じて、Yahowha 13 の音楽は広くアクセス可能となり、過去のカルト的活動が現代音楽シーンへの影響として結実しています。Father Yod の精神と Source Family の実験精神は、単なる音楽の枠を超え、今なお新しい世代に「共同体・即興・スピリチュアルの可能性」を問いかけ続けているのです。