
車と音の密接な関係
文:mmr|テーマ:世界各国の主要な車メーカーごとの代表モデルのオーディオ仕様、技術について
カーオーディオは単なるオプション装備ではなく、運転体験や車内空間の価値を大きく左右します。車の設計段階での素材選定や静音性、空間設計は音質に直結します。
本稿では世界各国の主要メーカーごとに、代表モデルのオーディオ仕様、提携ブランド、技術を詳述します。
日本メーカーの音響哲学
トヨタ/レクサス
- 代表モデルのオーディオ仕様
- レクサスLS:Mark Levinson 3Dサラウンド、17スピーカー、1,200W
- ソフトウェアによる部屋補正機能付き
- メーカーとブランドの提携
- Mark Levinsonとの長期協業による高級車向けサウンド設計
- 逸話や技術
- 車内の各素材・天井やシート生地も音響補正を考慮して選定されている
製品名 | リンク |
---|---|
Mark Levinsonアンプ | Amazon |
Mark Levinsonスピーカー | Amazon |
日産/インフィニティ
- 代表モデル:インフィニティQX80(Bose 16スピーカーシステム)
- 技術:車内音響を最適化するため、スピーカー配置や素材反射を解析し、BOSEと共同でチューニング
ホンダ
- 代表モデル:アコード(ELS Studio 14スピーカー)
- 技術:音楽家監修によるナチュラルなサウンド再現
マツダ・スバル
- 代表モデル:CX-5(Bose 12スピーカー)
- 技術:車内空間の音響特性を測定し最適化
ドイツ車の精密音響
メルセデス・ベンツ
- 代表モデル:Sクラス(Burmester 3Dサラウンド、最大23スピーカー、1,500W)
- 技術:車内各位置で均一な音響特性を再現するため、DSPで最適化
BMW
- 代表モデル:7シリーズ(Bang & Olufsen 16スピーカー、1,400W)
- 技術:ドライバー中心の音場設計、車両速度に応じた音量補正
アウディ
- 代表モデル:A8(Bang & Olufsen Advanced Sound System、19スピーカー、1,650W)
- 技術:マルチチャンネルDSPで立体音響再現
アメリカン・サウンドの迫力
フォード/シボレー
- 代表モデル:カマロ(Bose 12スピーカー、1,000W)
- 技術:低音を強調し、車内全体に迫力あるサウンドを再現
テスラ
- 代表モデル:モデルS(高性能DSP搭載オーディオ、22スピーカー、960W)
- 技術:ソフトウェアアップデートで音質改善が可能
クライスラー/ジープ
- 代表モデル:ラングラー(Alpine 9スピーカー、480W)
- 技術:屋外騒音下でも音質を保つ調整
イタリア・フランス車の個性派音楽体験
フェラーリ/ランボルギーニ
- 代表モデル:フェラーリ812スーパーファスト(JBL 12スピーカー、380W)
- 技術:エンジンサウンドと共鳴するチューニング
マセラティ/アルファロメオ
- 代表モデル:ギブリ(Bowers & Wilkins 15スピーカー、1,170W)
- 技術:Nautilusツイーターで高精細音再現
プジョー/ルノー
- 代表モデル:プジョー508(Focal 12スピーカー、400W)
- 技術:コンパクト車ながら空間音響を最大化
韓国・中国メーカーの新興勢力
現代/起亜
- 代表モデル:ソナタ(Lexicon 12スピーカー、600W)
- 技術:プレミアムブランド向けの調整、音圧均一化
BYD/NIO/Geely
- 代表モデル:NIO ES6(独自開発18スピーカー、1,000W)
- 技術:EV特性を活かした低周波調整
イギリス車の高級音響
ジャガー
- 代表モデル:F-Pace、XJ(Meridian 14〜20スピーカー、825W)
- 技術:Trifield 3D音響技術で立体音場再現
ランドローバー
- 代表モデル:Range Rover Evoque(Meridian 13〜19スピーカー、825W)
- 技術:車両設計段階で音響最適化
アストンマーティン
- 代表モデル:Vantage、DB12(Bowers & Wilkins 15スピーカー、1,170W)
- 技術:Nautilusツイーター採用で臨場感ある音
ベントレー
- 代表モデル:Bentayga、Continental GT(Naim for Bentley 20スピーカー、1,960W)
- 技術:速度や環境に応じて音質を自動補正
ロールス・ロイス
- 代表モデル:Phantom、Ghost、Cullinan(Bespoke Audio 13〜18スピーカー、最大1,300W)
- 技術:車両の静粛性を活かすスタジオ品質再現、アルミやマグネシウム素材でノイズ低減
ブランド/モデル | システム | スピーカー数/出力 | 特徴 |
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Jaguar/F-Pace | Meridian | 14/825W | Trifield 3D |
Land Rover/Evoque | Meridian | 19/825W | 3Dサラウンド |
Aston Martin/Vantage | B&W | 15/1,170W | Nautilusツイーター |
Bentley/Bentayga | Naim | 20/1,960W | 自動音質補正 |
Rolls-Royce/Phantom | Bespoke | 18/1,300W | スタジオ品質 |
技術トレンドと未来の車内音楽体験
- アクティブノイズキャンセリングとDSP最適化
- AIによる個人向け音質調整
- EV時代の静粛性を活かした新しいサウンドデザイン
まとめ:エンジン音から音響芸術へ — 車とサウンドの未来図
車は、かつて“移動のための機械”だった。しかし今や、それは“音を纏う空間”であり、文化の延長線上にある。 ドイツは精密工学の延長として、イギリスは伝統と格式を、アメリカは自由とパワーを、日本は繊細な調和を音に込めてきた。 それぞれの国のカーオーディオは、その社会の美意識と産業哲学の結晶でもある。
静寂を極めたロールス・ロイスの「無音の舞台」。 電気信号とエモーションを結ぶテスラのDSP制御。 そして、素材と空間を“楽器”として鳴らすレクサスのMark Levinson。 これらは単なるスピーカーシステムではなく、人と機械、工学と感性が交差する「音の建築」といえる。
EV化が進む今、エンジン音という象徴的な要素が消えゆく一方で、 車内音響は新たな役割を担いはじめている。 それは“移動するリスニングルーム”であり、“個人の音響宇宙”だ。 各国メーカーが追求するのは、もはや馬力でも静粛性でもなく、 「走ることで、どんな音を聴かせられるか」という新しい体験価値なのだ。
カーオーディオは進化を止めない。 音響設計はAIが補正し、シートは共振板となり、ドライバーの心拍や気分に合わせて音場が変わる。 その行き着く先にあるのは、国やブランドを超えた“音の平等圏”だろう。 走りながら聴くという行為が、再び人間の感性を研ぎ澄ませていく。
車が語るのは道のりではなく、音の旅である。 そしてその旅は、まだ始まったばかりだ。